投資

30 October, 2025

今第3四半期、投資需要は増加しました。

  • 今期の金(金地金、金貨、ETF)に対する投資需要は537トンに達しました。
  • 機会損失への恐れ(FOMO)による流入が引き続き安全資産としての購入を後押しし、世界全体の金地金・金貨需要を前年同期比で17%、前四半期比で3%押し上げました。
  • 金ETF投資は222トンの増加となり、世界全体の保有量は2020年の過去最高記録に近付きました。
トン 2024年
第3四半期
2025年
第3四半期
前年同期比
変化率(%)
投資 364.8 537.2 47
金地金・金貨 270.1 315.5 17
インド 76.7 91.6 20
中国:本土 62.1 73.7 19
金を裏付けとするETF 94.7 221.7 134

今期の金価格の目覚ましい上昇は、金地金、金貨、金ETFという取引形態のすべてで投資需要が高まったことによるものです。長引く地政学的混乱や米ドル安に米国連邦準備制度理事会の独立性や米国政府機関の閉鎖に対する懸念が加わった結果、安全資産としての買いが増加しました。そのため価格の高騰がさらなる投資の流れを呼び込み、機会損失への恐れ(FOMO)に駆り立てられた投資家たちは躍起になり、金保有量を積み増して、より多くの利益を得ようとしました。

年初来の投資需要は1,566トンと、2020年第1~第3四半期のピークまでわずか6%に迫りました。ただし金額ベースではすでに未知の領域に突入しています。今年1月から9月までの投資額は1,610億米ドルで、昨年同期(630億米ドル)の2倍以上となり、2020年に記録したこれまでの過去最高を74%上回りました。

今年、投資需要が金総需要のかなりの部分を占めるようになり、金地金、金貨、金ETFの需要は年初来の金総需要の半分を超え、3分の1以下だった昨年から大きく増加しました1。その犠牲となったのが宝飾品です。金エクスポージャーを得るため、より費用効果の高い投資市場に移行する消費者が出てきたことも一因となっています。

関係者の話によると、特に9月に世界中で金への関心が高まったとのことです。今期のニューヨーク商品取引所(COMEX)における買建玉正味残高の増加がそうした関心の高まりを示しており、それがOTCと在庫フローの55トンに反映されています。注目すべきは、この数値がワールド ゴールド カウンシルのモデルにおける、その他の需給バランスに関する推定値の統計残差も反映している点です。

地政学的不確実性が依然として高いことや米ドル安が続いていること、今後の米国による利下げへの期待などから、年初来金投資に有利な環境が続いています。さらに、過熱気味の株式市場のため、金は投資分散手段としてだけでなく、今後起こり得る株式市場の調整局面に対するヘッジとしての役割にも注目が集まるようになりました。したがって、第4四半期に入っても続いている旺盛な投資フローが今後も続いていく環境が整つつあるといえるでしょう。

 

図5:金ETFの年初来流入が2020年以来の高水準を記録

地域別四半期ETF需要と運用資産残高(AUM)

GDT Q3 2025: Investment Chart 1 - [JP]

データは 2025 年 9 月 30 日現在。
ブルームバーグ、企業発表資料、ICE ベンチマーク・アドミニストレーショ ゴールド カウンシル
 

ETF

今期は金の裏付けがあるETFにとって記録的な四半期でした。世界全体の流入量は260億米ドルに達し、これまでの記録だった2020年第2四半期の230億米ドルを超えました。量ベースでは、今期の需要221トンが加わったことで総保有残高は3,838トンとなり、2020年11月に記録した過去最高の3,929トンにわずか2%足りないレベルまで増加しました。

金ETFに対する需要は、年初来の金価格の動きに関する主要な促進要因の一つですが、その点に関しては今期も例外ではなく、特に9月はすべての地域で流入の勢いが加速しました。また、金の値上がりが続いたことでさらに多くの投資フローを呼び込むという「好循環」も生まれました。

今期、北米では上場ファンドによる139トン(160億米ドル)が加わって同地域の総保有量は1,996トン(運用資産残高(AUM)は2,460億米ドル)となり、2020年10月の記録にあと約100トンで届くという水準にまで達しました。

欧州の上場ファンドによる増加は70トンで、これは2022年第1四半期以来、四半期として最大の量ベースの増加であり、年初来の需要は148トンになりました。

その一方で、好調を維持してきたアジアの上場金ETF需要は今期大きく減速し、13トンとなりました。アジアの場合、8期連続で成長が続き、その間に保有量は200トン増の334トンとなりました。今期、最大の増加(+11トン)を示したのはインドです。日系ファンドが6トンの流入を呼び込み、中国の流出6トンを相殺しました。

その他の地域の上場ファンドにはほとんど変化がなく、南アフリカの流出はオーストラリアの増加がほぼ相殺しました。

年初来、金ETFは619トン(640億ドル)増加しました。その多く(358トン、380億米ドル)を受け入れたのは北米の上場ファンドでしたが、欧州(151トン、150億米ドル)やアジア(119トン、130億米ドル)の需要も旺盛でした。この需要の力強さは第4四半期に入ってからも続いており、本稿執筆時点で、10月の流入は特に米国とアジアの上場ファンドで好調でした。ただし、過去の分析からは、金ETFにはまだ成長の余地があることが示されています。

金地金・金貨

世界全体の金地金・金貨投資は4四半期連続で300トンを超え、2013年以来の好成績となりました。 

機会損失への恐れ(FOMO)が広がりを見せ、特に金価格の上昇が始まった9月に顕著になりました。そのため、グローバルな地政学的不安を背景にすでに強まっていた安全資産への資金流入に一段と拍車がかかりました。また消費者の間に、宝飾品からより低マージンの純投資商品へと切り替える動きがあり、それが今後の下支えになる可能性があります。1、2の例外はあるものの、世界中の投資市場で前年同期比がプラスになりました。

中国

今期の金地金・金貨需要は、2022年上半期のロックダウンによる落ち込み以降続いている回復基調を維持し、増加しました。需要は過去12年間で最も好調だった第2四半期に比べると3分の1減でしたが、過去5年間の同四半期平均とはほぼ同水準であり、また年初来需要の313トンは、2024年の通年合計をわずかに23トン下回っただけです。

7月と8月は、金価格が一定の範囲で推移した一方で、現地の株価が急騰したことから、金への投資活動は比較的低調でした。しかし9月に入ると、金価格が上昇し、株式市場の勢いが低下したことで、投資家たちが再び購入に意欲を示し始めるようになりました。そこに人民銀行による月ごとの金購入の発表が継続してあったことが、今期の金に対する投資家の信頼をますます高めることになったと思われます。

年初来、金投資の主なけん引役は、前例のない金価格の高騰と米中貿易摩擦、そして自国経済の成長力に対する懸念でした。このことを念頭に、ワールド ゴールド カウンシルでは、金投資は今年いっぱい好調を維持するものと予測しています。米中の緊張が高まる中で、貿易摩擦は安全資産に対する需要を増加し続けるでしょう。また、成長が減速する経済を立て直す金利引き下げの効果が、金地金・金貨投資をさらに支えるものと見込まれます。

今年実施された規制改革を受けて、中国の保険会社が金市場に参入してきたことは、同国の金投資需要を長期にわたって支えることになるでしょう。入手可能な公開情報によると、今年の第3四半期時点で、試験的投資プログラムに参加している保険会社6社が上海黄金交易所の会員になっており、金投資への道筋が開かれました。しかし本稿執筆時点で、購入を公表したファンドはありませんでした。

インド

インドでは、国内価格の高騰が投資家を惹き付け、今期の金地金・金貨需要は引き続き堅調に推移しました。今期の大半でルピー安であったことが、国際価格の動きが一定範囲内に限られていた時でさえ、国内金価格が上昇を続ける要因となりました。この金価格の持続的上昇傾向は、好機を逃すまいと躍起になっていた投資家たちを惹き付けました。

184トンという年初来需要は、1月~9月の実績としては2013年以降の最高であり、コロナ禍後の平均通年需要196トンに迫る数字でした2

今期の投資額は異例で、100億米ドルを超えました。四半期としては2位以下に大差をつけた記録的数値であり、これまでの記録だった2024年第4四半期の70億米ドルを56%上回りました。

今期、投資需要は一貫して順調であり、価格上昇の勢いが増し、祝祭シーズンが近付いた9月には一段と増加しました。事例証拠によると、宝飾品を購入した消費者の中から、金地金・金貨のように現地スポット価格により近い価格の商品の購入を選好する者が現れてきているようです。購入の急増は、金の国内価格が国際価格に対するプレミアムを付ける動きとなって反映されており、その傾向は10月に入っても続いています。

中東とトルコ

中東地域の投資需要は、他の市場とほぼ同様のパターンをたどっており、価格上昇が始まったことで9月にペースを回復するまでの2ヵ月は比較的低調でした。7月と8月は、金価格が当時の過去最高記録の近くで安定していたことから、利益確定売りが高水準で続きました。

こうした地域の傾向とは異なる動きを見せたのがイランです。今期初めの需要は安全資産としての購入によって支えられていましたが、現地金価格の急騰によってその動きにブレーキがかかり、最終的に、多くの投資家には手の届かない水準まで上がることになりました。 

一方、トルコの投資需要は、極めて低調だった2024年第3四半期こそ上回りましたが、非常に高かった過去数年の水準との差は大きく、届きませんでした。投資家の関心が金から高金利が得られるリラ建て普通預金口座へと移っています。

7月と8月は金価格が一定範囲内で推移したことで利益確定売りが増え、需要の低迷が進みました。その影響が、時折、現地金価格のディスカウントという形で現れることもありました。

9月に入ると需要が回復し、急速に勢いを増して現地プレミアムを100米ドル/オンス以上まで押し上げました。第4四半期の最初の数週間、需要は堅調を維持し、プレミアムは非常に高い水準に留まっています。

欧米

米国の金地金・金貨市場では、正味の金投資需要が再び急減し、今期に前年同期比でマイナスを記録した唯一の市場となりました。需要は7トンまで落ち込み、コロナ禍前の2017年~2019年以来の低水準となりました。しかし、今期の低調な数字の裏には、旺盛な買いと継続的な利益確定売りとが共存する、非常に健全な二方向の動きが隠れていました。

9月に金価格が過去最高値を更新すると需要が回復し、その上昇傾向によって投資家たちが価格予想の上方修正を始めたことで、現金化(売却)が抑制されました。9月に金地金が関税の対象外となることが明らかになると、需要にさらに拍車が掛かりました。これまでのところ、購入意欲は10月に一段と旺盛になりましたが、これは第4四半期が正味ベースで好調になる前兆かもしれません。 

欧州のリテール投資は上半期の回復が続きました。それを促したのは、長引く地政学的不確実性とマクロ経済的不確実性です。

リバウンドの多くが9月に集中しました。これは、金価格が過去最高値まで上昇し、それをメディアが大きく取り上げたためです。その傾向は10月になっても続き、特に金価格が4,000米ドル/オンスの大台に達したことは広く報道されました。

ドイツ語圏の市場では前年同期比が大幅に改善しましたが、英国でも2桁の増加を記録しました。

 

図6:年初来の金地金・金貨投資が12年ぶりに記録を更新

第1~第3四半期の世界の国別/地域別金地金・金貨投資(トン)

GDT Q3 2025: Investment Chart 2 - [JP]

*データは2025年9月30日現在。
出所:ICEベンチマーク・アドミニストレーション、メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ワールド ゴールド カウンシル

ASEAN市場

今期、ASEAN地域の市場のほぼすべてで、金地金・金貨需要が前年同期比の2桁増を記録しました。世界的パターンとともに、急上昇する金価格と世界中で高まる地政学的懸念とが重なり、投資家の高い関心を集めました。

タイでは、2019年第1四半期以来の好調な四半期となり、インドネシアでは投資が12年ぶりの高水準に達しました。
ベトナムは再び例外的存在になりました。投資が前年同期比で若干減少したのですが、その原因は需要不足ではないようです。関係者からの情報によると、金販売店の外には行列ができているとのことですが、国内市場の金不足のため、顧客1人当たりの購入商品数に制限が課せられています。

今期、ベトナム政府は、金地金の生産および輸入の国家独占を10月10日をもって廃止すると発表しました。その結果、国内産の金商品に対するプレミアムの減少が期待されています。

その他のアジア諸国

今期、日本は若干の買い越しとなりました。9月に金価格が記録を更新したことで、投資家が買いに殺到しましたが、今期は現金化(売却)も引き続き相当量に達しました。

今期末以降、現地金価格が2万円/グラムを突破したことで需要が爆発的に増加し、販売店の小型金地金の在庫が底をついたと報じられました。

韓国でも金価格の上昇に投資家が惹き付けられる状況となり、また国内価格は通貨安を受けて一段と高騰しました。韓国の年初来需要は、ワールド ゴールド カウンシルのデータシリーズで過去最高の18トンに達しました。

オーストラリア

金価格の上昇により、今期のオーストラリアの金地金・金貨投資は前年同期比で急増しました。この傾向は10月まで続き、一部のディーラーでは在庫不足に陥っている模様で、金地金の小売店の外には長い行列ができているとの報告もありました。

7月と8月には、限られた数量の利益確定売りが確認されましたが、価格への期待がさらに高まったことで9月には姿を消しました。

表3:国別の合計金地金・金貨需要(トン) 

  2024年
第3四半期
2024年
第4四半期
2025年
第1四半期
2025年
第2四半期
2025年
第3四半期
前四半期比 
変化率(%)
前年同期比変化率(%)
インド 76.7 76.0 46.7 46.1 91.6 99 20
パキスタン 4.1 5.6 5.0 4.8 4.3 -10 5
スリランカ - - - - - - -
中華圏 63.9 86.2 126.7 118.3 76.6 -35 20
中華人民共和国本土 62.1 83.6 124.2 115.1 73.7 -36 19
香港特別行政区 0.3 0.4 -0.4 0.8 1.0 25 228
台湾 1.4 2.2 2.9 2.4 1.9 -21 34
日本 0.1 -0.9 0.2 -0.5 0.9 - 626
インドネシア 7.6 5.8 8.9 5.8 10.2 76 34
マレーシア 1.5 2.3 2.5 2.0 2.1 5 38
シンガポール 1.2 1.9 2.5 2.2 1.8 -19 47
韓国 4.2 5.9 7.0 5.3 5.9 11 40
タイ 12.1 14.6 7.4 10.0 15.1 51 25
ベトナム 7.9 8.2 12.0 9.5 7.7 -19 -3
オーストラリア 2.5 3.6 3.1 3.6 3.2 -12 30
中東 25.1 27.1 28.4 31.0 28.3 -9 13
サウジアラビア 3.2 3.7 4.4 3.4 4.5 32 41
UAE 3.6 3.4 3.1 4.1 3.4 -18 -6
クウェート 1.6 1.4 1.4 1.9 1.5 -21 -5
エジプト 5.3 5.9 4.7 5.9 5.6 -5 5
イラン 9.5 10.4 12.7 13.1 11.4 -13 20
 その他の中東 2.0 2.2 2.1 2.6 2.0 -21 1
トルコ 12.7 23.5 20.2 15.3 14.3 -6 13
ロシア連邦 9.1 9.0 7.6 8.5 9.5 12 4
米州 22.3 21.7 19.5 11.7 9.7 -17 -56
米国 19.9 18.6 15.9 8.8 7.2 -18 -64
カナダ 1.8 2.4 3.0 2.3 1.9 -19 6
メキシコ 0.2 0.2 0.2 0.1 0.1 5 -17
ブラジル 0.4 0.5 0.4 0.4 0.5 22 10
欧州(CISを除く) 18.2 23.2 27.3 28.3 28.7 1 58
フランス -0.3 -0.5 -1.2 -1.1 -0.4 - -
ドイツ 3.5 8.7 10.5 10.9 9.8 -10 180
イタリア - - - - - - -
スペイン - - - - - - -
英国 3.5 2.2 4.0 3.2 4.2 28 18
スイス 5.0 5.4 5.8 6.3 6.0 -5 20
オーストリア 0.6 1.1 0.8 0.9 1.2 35 106
その他の欧州 5.8 6.3 7.3 8.1 7.9 -3 35
小計 269.1 313.6 324.8 301.7 310.0 3 15
その他・在庫変動 1.0 11.1 0.2 5.3 5.5 4 469
世界合計 270.1 324.7 324.9 307.0 315.5 3 17

出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

Footnotes:

1リサイクルをネットした宝飾・テクノロジーおよび地金・金貨・ETF・中央銀行需要で計算

22021 年~2024 年におけるインドの年平均金地金・金貨需要.

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