供給

30 October, 2025

総供給量は第3四半期としての過去最高を記録しました。

  • 今期の金総供給量は前年同期比で3%増の1,311トンとなり、四半期としての記録を更新しました。
  • 通常、第3四半期に季節要因による増加が起きる鉱山生産量は前年同期比2%増、前四半期比8%増の977トンで、ワールド ゴールド カウンシルのデータシリーズによると、こちらも記録的四半期となりました。
  • 今期、米ドル建て金価格が16%と急騰したにもかかわらず、リサイクル金の供給量は前年同期比こそ+5%であったものの、前四半期比は若干減少して343トンにとどまりました。
トン 2024年
第3四半期
2025年
第3四半期
前年同期比
変化率(%)
総供給量 1,275.9 1,313.1 3
鉱山生産量 957.6 976.6 2
産金会社のネットヘッジ -6.5 -8.0 - -
リサイクル金 324.8 344.4 6

金の総供給量は長期的増加傾向が続いており、今第3四半期は、1,311トンの新記録となりました。前年同期比が3%のプラスとなったのは、ヘッジによる若干のマイナスはあったものの、記録的な鉱山生産量とリサイクルの増加が貢献しました。

年初来の金供給量は前年同期比1%増で、3,716トンの記録を達成しました。リサイクルは、同期間における最高増加率の3%で、1,039トンになりました。今年1月~9月の間に米ドル建て金価格が47%上昇したことで、上昇益を得ようとする消費者の利益確定売りに拍車がかかりました。

 

図9: さまざまな地域での広範囲の成長により、世界の採掘量は前年同期比1%増加

上半期の年間鉱山生産量、トン*

GDT Q3 2025: Supply Chart 1 - [JP]

*データは2025年9月30日現在。
出所:メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ワールド ゴールド カウンシル

鉱山生産量

今期、鉱山生産量は典型的な季節要因による増加で前四半期比8%増の977トンとなり、昨年の第3四半期の記録を2%上回りました。

カナダとガーナの増産により、前年同期比マイナスとなったマリとトルコの減少分が相殺されました。次にあげるのは、主に増産と新規事業とによって大幅に成長した市場です。

  • カナダ(前年同期比20%増)では、ブラックウォーター、コテ、グリーンストーンの各鉱山で増産が続いたほか、B2ゴールド社のバックリバー・プロジェクトで新たな生産が始まり、その他多くの既存事業でも生産量が増加しました。
  • ガーナ(前年同期比9%増)では、山東黄金のナムディニ鉱山で増産が続いたのに加え、今期末にはニューモントのアハフォ・ノース鉱山での生産が始まりました。
  • オーストラリア(前年同期比6%増)では、グリュイエール、KCGM、テルファーでの生産量増加が、PC2-3パネルケーブ(採掘区画)の拡張工事が続いているカディア鉱山の減産分をカバーしました。
  • ロシア(前年同期比3%増)では、数多くの鉱山で、廃土除去のために生じたポリウス社の減産分を補ってあまりある増産を記録しました。

一部の国では、市場特有ないし鉱山特有の事情から、金鉱山生産量が前年同期比でマイナスとなりました。

  • インドネシア(前年同期比37%減)では、9月に発生した死亡事故のため、グラスベルグ鉱山の操業が停止されました。バツ・ヒジャウ鉱山も、廃土除去に伴って減産となりました。
  • マリ(前年同期比13%減)では、所有者であるバリック社とマリ政府1との対立のために、ルロ・グンコト鉱山の操業停止が続いています。
  • メキシコ(前年同期比5%減)では、土地利用契約が満了となった後、エクイノックス・ゴールド社のロスフィロス鉱山の操業が停止され、またオーラ・マイニング社のカミノ・ロホ鉱山では坑壁の変位のため操業を一時中止しました。
  • トルコ(前年同期比19%減)では、オクシュト鉱山およびキスラダグ鉱山をはじめとする複数の鉱山で生産が低下しました。 

現在の鉱山生産量に関する生産増加率から推計すると、今年の年間総生産量は過去最高に達する見込みです。ただし、グラスベルグ鉱山とルロ・グンコト鉱山の操業停止が続くと、インドネシアとマリは大きな痛手を被ることになり、正確な予測が通常より困難になります。

メタルズ・フォーカスの鉱山生産量データには、人力小規模の金生産(ASGM)の推計が含まれています。コストが比較的抑えられている一方で、金価格が大幅に上昇していることから、今年、このソースからの貢献が増加することが期待されています。

金鉱業の全維持生産コスト(AISC)の平均値は、第2四半期には前年同期比で12%増の1,578米ドル/オンスでした全維持生産コスト(AISC)が1四半期で2%増となったことは、一般に第1四半期の計画的操業停止の後、第2四半期に入ると全面操業に戻るという季節要因によって部分的説明がつきます。

持続的な資本支出の増加に投入コストの増加や金価格の上昇に伴うロイヤルティ支払額の高騰が、AISCの前年同期比増につながりました。

産金会社のネットヘッジ

金価格が過去最高値を繰り返し更新する環境で、金採掘会社が第3四半期のスポット金価格の上昇を全面的に受け入れる姿勢を崩さなかったのは当然のことです。初期の推計では、今期の世界のヘッジポジション正味残高は8トンの減少になる見込みでした。これは、修正後の減少量が25トンであった第2四半期に続く減少であり、7トン減だった初期推計値よりさらに下げ幅が広がりました。本ゴールド・デマンド・トレンドは多くの企業によるデータ公表の前に発行されるため、こうしたデータの修正は頻繁に行われます。金採掘会社は通常、契約を自然満了させることで、ヘッジポジションを解消します。

ワールド ゴールド カウンシルの四半期データシリーズによると、2024年第1四半期以降、ヘッジ解消が続いていて、その間にヘッジポジション正味残高は合計94トン減少して約160トンになりました。

リサイクル金

今期、金のリサイクルは前年同期比5%増の343トンでした。金の米ドル建て四半期平均価格が前年同期比で40%上昇したわりには、リサイクルの反応は意外と低調だったように思われます。さらに、(リサイクルに関して大きな意味を持つであろう)前四半期比の変化を考慮すると、このことがさらに明瞭になってきます。6月末から9月末の間にスポット金価格が16%上昇したにもかかわらず、今期のリサイクル量は前期より1%減少しました。

通常、そうした大幅な価格上昇に対してリサイクルは増加する方向で反応すると考えられています。しかし、今年の金価格の上昇はその規模とスピードから、さらなる値上がりへの期待を抱かせるものであり、より多くの利益を得ようとして売却を控える動きを招きました。さらに、経済要因に起因する売却も引き続き限定的でした。

ただし、過去の水準に比べると、リサイクル量は増加したといえます。年初来、リサイクルによる供給量は1,039トンに達し、2年連続で1,000トンを超えました。かつて、リサイクルがこれほど好調だったのは世界的な金融危機の最中とその後にあたる2010~2013年の期間だけであり、当時は金の高価格と経済危機とが連動して、リサイクルの急激な増加を引き起こしました。 

 

図 10: リサイクル量は1000トン以上に増加したものの、急騰する価格への反応は相対的に低調のまま

年初来のリサイクル供給(トン)*

GDT Q3 2025: Supply Chart 2 - [JP]

*データは2025年9月30日現在。
出所:メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ワールド ゴールド カウンシル

地域レベル/国レベルでは、欧州への流入が年初来の世界的リサイクル量の増加を促し、イタリア、ドイツ、フランス、イギリスの4カ国で2桁の増加を記録しました。今年1月~9月までの地域別リサイクル金の供給は、過去10年間の年初来平均量より約40%多くなっています。

米国のリサイクルも安定していますが、欧州ほどの規模ではありません。投げ売りはほとんど見られず、増加を促した主要要因は金価格の高騰に乗じた利益確定売りでした。

中国が、東アジアの金リサイクルの前年同期比増加を支えた立役者でした。背景には金価格の高騰と相次ぐ小売店の閉店があり、それが溶解用金の供給増加をもたらした。前四半期比は一貫して低調であり、価格上昇に対する期待が生じ、人々はさらなる価格上昇による利益確保を狙って金を手放さなくなりました。

インドの消費者市場で低迷が続いたことで、南アジア全体の前年同期比および前四半期比の低下を後押しする結果になりました。古い宝飾品を新しい物に交換する取引は依然として非常に活発であり、また金宝飾品を融資の担保としたり、高値を利用して利益を得たりする動きも続いています。この2つの傾向により、スクラップのために売却される金の量が減少しています。

中東全体でのリサイクルは総じて前四半期比が高く、金の高価格のほか、ところによっては投げ売りの要素も反映しています。年間ベースでは、金は地政学的混乱に対するヘッジ機能を果たしていることもあり、リサイクルによる供給は比較的安定しています。

Footnotes:

1Operations reportedly restarted in October, having been shuttered since the beginning of the year: Mining.com | Barrick’s seized Mali mine restarts under state management | Oct 2025

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