今後の見通し

30 October, 2025

投資および価格上昇のペースを考慮し、ワールド ゴールド カウンシルでは、2025年度の投資予想を大幅に上方修正し、また宝飾品予想については下方修正しました。今年度の最終四半期に向け、その他の予想についてはすべて、ほぼ変更ありません。

  • 投資: 金ETFの積み増しが驚異的ペースで進み、第4四半期には世界全体で一段と勢いを強め、これまでの保有残高のピークを一時的に上回りました。積み増しがさらに進むことを示す確かな根拠があることから、この傾向は今後も続くものと考えています
  • 金地金・金貨の購入は、価格が上昇する中でも堅調でした。中国とインドについての展望が明るいことから、ワールド ゴールド カウンシルではこれまでの前向きな目標を維持しつつ、さらなる上昇の可能性があると考えています。
  • 加工: 宝飾品需要量にとっては、高価格が今後も最大の足かせとなる可能性があります。仮に、第4四半期に価格が下がったとしても、その効果が需要にまで波及するのには時間がかかるでしょう。節減とAI投資の間で板挟みになっているテクノロジーに関しては、「成長なし」という予測に変わりはありません。
  • 中央銀行: 急激な価格上昇がありましたが、今期の需要の底堅さから、中央銀行に関する予測について若干上方修正しました。需要の拡大はもうひとつの歓迎すべき、下支えとなる要因です。
  • 供給: 増産と高マージンが引き続き鉱山生産量の増加を促進しています。ただし、操業停止と修正で、年間記録を期待している人たちが再び失望する事態も考えられます。ヘッジは減少すると予想されています。
  • リサイクルに関しては、意外なほど反応が鈍い状態が続いています。さらなる価格上昇に対する期待や、経済が危機的状況にないこと、即座に供給できる在庫の不足、金を担保として差し入れる傾向などが阻害要因として考えられます。ただし、今の価格状況では予想外の急激な増加の可能性を無視することはできません。
 

図2:さらなる拡大余地がある投資、今後も順調に続くであろう中央銀行の購入、依然低調が見込まれる加工

年間金需給の変動予測*

GDT Q3 2025: Outlook Chart 2 - [JP]

*データは 2025 年 9 月 30 日現在。

投資

「地位の低下」や「脱ドル化」が話題となる中で、投資判断のカギとなるのが米ドルの動きです。こうした議論の妥当性については意見の相違があり、ワールド ゴールド カウンシルでは、現実はさらに複雑であると考えています1。今年1月から9月までのドル安はヘッジ取引の結果だと言われています。米国資産は抜きん出た存在としての特性を多少失ったかもしれませんが、依然世界のほとんどのポートフォリオでその中心に位置しています。ヘッジによって、ポートフォリオ全体では運用実績をさらに高め、利益を確保することが求められます。また、関係している投資家が比較的少ない資産に投資対象を変えることは、堅実なポートフォリオ運用と言えます。

予想されている米国の政策金利引き下げが投資家にとってのもうひとつの重要な柱です。機会費用という動機は依然重要ですが、金利引き下げにはさらに複雑微妙な意味合いが含まれている場合があります。それは、米国経済の悪化やインフレに対する懸念、すなわち、金を歴史的に支えてきたおなじみのテーマ―スタグフレーションを反映するものである。

金を裏づけとするETFは、年初来実績で際立ったセクターです。重量ベースの保有量が2020年の過去最高記録の及ばなかったものの、需要を促進した要因はそのまま残っていると考えています。一般的ポートフォリオに占める金の割合はいまだに低く、また、依然堅固な戦略的根拠があることから、新たに大勢の投資家が参入してくれば、保有量が過去のピークを超える可能性は十分あります。

ただし、さらなる流入に対する障害となり得る、次のような戦術的リスクが存在します。テクニカル分析に基づいた売却シグナル、関税問題の継続的緊張緩和、地政学的問題の解消、米国連邦準備制度理事会の独立性に対する不安の解消、金から「より安価な」資産への転換。価格が今の速さで動き、保有量が過去のピークに近づけば、こうしたリスクは自然と急拡大することになります。

10月半ばの売りに続き、第4四半期に利益確定売りが増加しても驚くことではありません。ただし、売却は金ETF市場以外で行われた可能性が高く、おそらくCTA取引の動きに促されたものになるでしょう2。ワールド ゴールド カウンシルでは、北米と欧州の需要については引き続き楽観的であり、経済的および政治的情勢は、値下がり時の買いの再開に有利な環境を提供すると見ています。予想を上方修正し、予想幅を狭めました。

FOMO(機会を逃すことに対する恐れ)に、地政学的懸念が重なったこともあって、金地金・金貨取引が活況を呈していることから、ワールド ゴールド カウンシルではプラスの通年予測を維持します。過去において金価格の急上昇が抑制要因となったことがありますが、今回はそうなりませんでした。それどころか、価格上昇を追う購入行動は、特に短期的な価格修正後に需要に貢献するものと思われる。この傾向は多くの地域で見られ、中でも中国とインドでは第4四半期に加速する可能性があります。貿易摩擦と経済悲観論が中国による購入をさらに促し、インドでは投資家が宝飾品を避け、低マージンの金地金・金貨を選好するようになるでしょう。関係者筋によると、第3四半期に軟化した米国の金地金・金貨需要は、第4四半期はじめに急速に持ち直したようです。

加工

ほとんどの地域で、2025年第3四半期の宝飾品需要は低調なスタートとなることが予想されていました。中国では重量ベースの需要が世界金融危機の最低水準程度に留まったものの、前四半期比で上昇したことと高い支出が下支えになりました。第4四半期に価格が軟化した場合、それは金価格に対して消費者が如何に迅速に、自信をもって適応したかの証左になるでしょう。長引く低迷や急激な価格上昇を考えると、回復には時間がかかるかもしれません。

インドでも需要量が少なかったものの、危機的レベルにまで下がることはありませんでした。今後は経済の底堅さが期待できるため、急激な価格の上下動がない限り、第4四半期には価格調整に関する消費者の反応に対する有用な統計も得られるに違いありません。

他の地域は、この2大購入地域の消費パターンをなぞっており、グローバルベースの需要モデルを構築することが非常に簡単であるのはそれが理由の一つです。宝飾品は世界各地で、価格や、時間差のある価格調整、所得の変動に対して極めて一貫した反応を示しています。第4四半期に関しては、(広範な所得増加は長期的には下支えとなるものの)世界的レベルでの所得の変動は予想されていないため、価格の動きと消費者の反応が各分野における最終四半期の需要を左右する可能性があります。

テクノロジー需要については、これまで述べてきたことに付け加えることはほとんどありません。コスト削減になれた業界にとって、価格圧力は常に存在する。しかし、一方、この分野はAIブームから恩恵を受け続けてもいます。この綱引きにより、通年需要の増減が抑えられる可能性があります。

中央銀行

中央銀行による活発な購入は今後も続くことが予想されます。ワールド ゴールド カウンシルの750~900トンという通年予想は、想定外の事態が起こらない限り昨年を下回ることになりますが、大幅な価格上昇を考えると、年初来フロー同様、驚くほど底堅いものとなっています。上振れリスクと下振れリスクは均衡していて、それを主に左右するのは価格の変動幅です。ただし、第4四半期以降、継続的需要に対してポジティブな見方を支持する要素が3つあります。

  • 主要新興国の外貨準備高(前年同期比)が、第4四半期に増加することが予想されています。
  • これまで不活発だった銀行が活発に動き出したことで、需要が増加しました。
  • ワールド ゴールド カウンシルの2025年度中央銀行調査では、同調査が開始された2019年以降で最も強い購入継続の意志が確認されました。この調査はこれまでのところ、将来に向けての優れた指針となっています。

供給

ガーナ、カナダ、オーストラリアが主導する増産と新規プロジェクトにより、2025年度に生産量が新記録を達成する可能性があります。ただし、複数の鉱山における操業停止により、予測の精度が多少低下することになります。

高価格が続くことで、ヘッジ契約が自然満了になるまで維持される可能性が高くなりますが、それが鉱山供給量全体に与える影響は無視できるレベルです。金価格は前四半期から大幅に上昇しましたが、状況は変わっていません。ワールド ゴールド カウンシルでは可能性は低いと見ていますが、仮に価格が大幅に下落した場合、生産者は価格を固定化する方向に動くでしょう。しかし、現在の価格上昇フェーズの間に起きた最大級のドローダウンを振り返って見ても、ワールド ゴールド カウンシルのデータ(2008年第4四半期:49トン減、2016年第4四半期:24トン減、2023年第4四半期:21トン増)によれば、ヘッジ総計に際立って目に付く増加はありませんでした。

リサイクルは、予想を下回り続けています。投げ売りは、消費者のバランスシートに大きな損失が生じた場合に起きる可能性がありますが、そのような事態は確認されていません。これまでの売り戻しは機に乗じた動きであったと思われ、多くの場合、それは上昇相場の初期段階で見られる健全な特徴です。

リサイクルは宝飾店の閉鎖が増えない限り低迷する可能性がありますが、中国からは閉店が増えているという情報はほとんど伝わってきていません。しかし、ここで注意しなければならないのが、特にインドで宝飾品を担保として差し入れる動きが続いていることです。金価格が大幅に下落すれば、借入を返済するために売却を強いられる可能性が高まります。結局のところ、比較的健全な経済状況やアナリストによる価格上昇予想が、消費者の売り戻しをためらう気持ちを後押ししているようです.3

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