テクノロジー

30 October, 2025

産業用途における金の使用量は前年同期並みでした。AIに関連した需要増は、不透明な状況が続く関税の影響によって相殺されました。

  • 今第3四半期のテクノロジー分野の金使用量は、前年同期比2%減の82トンでした。
  • テクノロジー分野で最も大きいエレクトロ二クス需要は前年同期比横ばいの69トンでした。
  • その他の産業用途に使用された金は前年同期から5%減の11トンで、歯科用途需要は長期低落傾向が続き、前年同期比7%マイナスとなりました。 
トン 2024年
第3四半期
2025年
第3四半期
前年同期比
テクノロジー 82.9 81.7 -2
エレクトロニクス 69.1 68.5 -1
その他産業用途 11.6 11.1 -5
歯科用途 2.2 2.0 -7

通常、第3四半期には多くの大手企業が新しい製品や機器を市場に投入することから、エレクトロニクス需要には季節要因による押し上げが起こります。しかし、今年はそのような増加が見られませんでした。米国の関税引き上げが予想されていたことで、上半期に企業が関税を回避する動きに出たためです。その結果、今期の需要にマイナスの影響が及びました。

金の高値も産業界にとっては大きな圧力となり、メーカーは度々コスト削減策を模索せざるを得ませんでした。節減や代替といった対策が一段と増加しているとの報告もあり、それが多くのエレクトロニクス用途における金需要に長期的影響を及ぼしている可能性があります。

エレクトロニクス

今期が横ばいとなったのは、広範な家電製品市場が不確実であった中で、AI関連需要が引き続き堅調であったからです。過去数四半期同様、AIサーバーの生産とデータセンターの設置が力強い成長を続けている一方で、エンドユーザー向け消費財は、長引く高インフレと地政学的不確実性の影響で、わずかな回復にとどまっています。調査会社のオムディアは、今期5大スマートフォンメーカーが、前年同期比で成長したと発表しましたが、「経済に対する不安と不確実性が引き続きベンダーの戦略的計画に重くのしかかっている」として、依然慎重な見方を取っています1。地域別の需要を見ていくと、アジアは堅調であり、米国では若干減少し、欧州の製造業では低調が続き、世界全体の低迷を引き起こしています。

今第3四半期、発光ダイオード(LED)に使用された金の量は減少しました。LED業界は主な用途での低迷という逆風に直面しており、中でも大きな影響を受けたのが、マクロ経済を巡る不確実性から複数のメーカーが在庫を抑える戦略を取ったバックライト分野でした。影響は、今期のパネルメーカーの設備稼働率が若干低下するという形となって現れ、そのマイナス傾向は今年いっぱい続くことが予想されており、バックライト分野の見通しをさらに悪化させています。先進的な照明技術やディスプレイ技術の開発が進められている自動車業界では、ミニLEDの導入が加速していて、従来型LEDの使用が減少し、金の使用量にマイナスの影響を及ぼしています。最後に、栽培用照明やUV/IR LEDなどの高価値で特殊な分野では成長が報告されているものの、このようなニッチ市場の拡大では、使用量が多い主要用途の低迷を完全に補うには不十分です。

ワイヤレス機器分野は今期、モバイル用電力増幅器(PA)やWi-Fi用チップの需要が堅調だったことで、穏やかな成長を達げました。この分野では、化合物半導体の重要性が増しており2、メーカーは人工衛星や高高度ドローン、太陽電池管理モジュールなど、PA以外の高成長分野への導入を拡大しています。将来は、化合物半導体がこの分野における金需要を支えることになる可能性が高まっています。

今期、メモリ分野の金需要が増加しました。その増加を後押ししたのがAIインフラの急激な拡大です。従来型ハードディスクドライブ(HDD)市場における深刻な供給危機(リードタイムが52週間以上に増加)によって、その代替品であるNAND型フラッシュメモリに対する需要が急増し、金の使用量が大幅に増えました。DRAMメモリ分野で(NAND型メモリへの)移行圧力が取りざたされている中、今後2~3年は、AIの急速な普及がメモリ分野の成長を促進する主な要因であり続ける公算が高まっています。

プリント基板(PCB)分野ですが、この分野は今期、成長を記録しました。AIサーバーインフラをはじめ、衛星通信やコンシューマー向けグラフィックカード、PC市場といった用途で、好調な実績をあげました。中でも最大の貢献をしたのがAIサーバー需要であり、継続的な仕様のアップグレードを通じて、金使用量の増加を促しました。今期、主要PCB分野で唯一減少を記録したのが自動車市場です。その主な要因は、米国が輸入車に課した高関税と、欧州および米国における電気自動車向け補助金の段階的縮小であり、自動車市場全体の勢いがそがれる結果となりました。

集計レベルで見ると、世界の主要エレクトロニクス製品製造拠点3カ所で、金需要の前年同期比の減少が報告されています。2025年第3四半期=日本:-19トン(0.5%減)、中国本土および香港特別行政区:-21トン(0.2%減)、米国:-16トン(1.9%減)。一方、韓国は+7トン(1.3%増)と若干ながら増加を記録しました。

その他の産業用途と歯科用途

今期、その他の産業用途および装飾用途(主に金メッキ製品やインドの伝統衣装に使用される「ジャリ」と呼ばれる金糸)における金使用量は5%減少しました。 

中国経済が相対的に弱くなっていることや宝飾品店の閉店が続いていることが、金メッキ需要にマイナスの影響を及ぼしています。インドでは、現地金価格が記録的高値となったことによる正負両面の影響が見られ、(消費者が高価な金無垢の製品を避けるようになり)メッキに使用される金の需要が増加した反面、ジャリ(金糸)の需要が減少しました。

記録的高値は歯科用途にも影響し、需要はわずか2トンにとどまりました。

Footnotes:

1 Omdia.tech.informa.com | Apple hit highest ever third quarter as global smartphone market grew 3% in 3Q25 says Omdia | 14 October, 2025

2化合物半導体とはガリウムやヒ素など複数の元素を組み合わせて作られる半導体で、シリコンなどの単一元素で作られる従来型半導体とは異なります。化合物半導体に使われる元素にはユニークな特性があり、高出力や光を、シリコンよりも速く、効率的に、トラブルなしに扱うことができるため、電気自動車をはじめ5Gネットワーク、最新型センサーなどの先進テクノロジーに欠かせないものとなっている。

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