金宝飾品は量的に減少した一方で、金額的には大幅に上昇しました。
- 今期、高騰が続いて記録的高値となった金価格のため、金宝飾品の消費が前年同期比で大きく落ち込みました。
- 世界全体の需要は、新型コロナウイルスの影響で2020年に記録した低水準以来、第3四半期としての最低水準まで落ち込みました。
- それとは対照的に、需要額の方は、宝飾品に対する消費支出が増えたことでほぼ世界中で増加しました。
30 October, 2025
| トン | 2024年 第3四半期 |
2025年 第3四半期 |
前年同期比 変化率(%) |
|
| 世界合計 | 460.0 | 371.3 | -19 | |
| インド | 171.6 | 117.7 | -31 | |
| 中国 | 102.4 | 83.8 | -18 | |
今期、宝飾品需要はすべての市場で、ほぼ例外なく、前年同期比が下落しました。インドと中国という2大市場では、季節要因により需要の前四半期比が上昇しましたが、前年同期比はまったく振るいませんでした。減少の主な理由は金の高価格であり、単に購買力が追いつけなくなったということです。
その一方で、宝飾品消費は金額ベースで410億米ドルと前年同期比13%増となりました。
金宝飾品の消費高は1,095トンと年初来18%減でしたが、これまでのところ2020年に記録した894トンをはるかに超えています。年初来、世界中で購入された金宝飾品の額は1,120億米ドルに達し、ワールド ゴールド カウンシルのデータシリーズにおける記録を更新し、同時に2024年の990億米ドルを14%上回りました。
高価格と消費者心理の落ち込みという逆風を受け、金宝飾品の消費高は84トンまで減少しました。これは第3四半期としては2007年以来の低水準です。そのため、中国における金宝飾品の年初来消費高は278トンと、すでに相対的に低調だった2024年第3四半期を25%下回る結果となっています。
ただし、前四半期比は、主に季節要因によってプラスとなりました。
金額ベースで見ると、状況は一変します。今期、中国の消費者が金宝飾品のために支出した額は660億人民元(90億米ドル)でした。これは、2023年第3四半期の710億人民元(100億米ドル)という過去最高記録まであと少しに迫る第2位の第3四半期記録です。
例年通り低調だった7月の後、七夕祭りの贈り物に支えられて、消費は8月末頃に回復し始めました1。さらに、7月と8月に金価格が比較的安定した時期があったことで、消費者が高価格になれる時間的余裕が生まれました。10月上旬の国慶節(結婚時期として人気がある)を前にした、婚礼関係の金購入もある程度、需要の増加に貢献しました。
伝統的な凝ったデザインの24K宝飾品は大幅に減少しましたが、低カラットで軽量な宝飾品は比較的底堅い動きを見せました。硬質純金製の商品は引き続き、他の商品よりも優れたパフォーマンスを示しました。それには、手頃な価格や、革新的デザイン、宝石やエナメルなどの素材を創造的に利用したことなどが貢献しました。小売業者も、プレミアムが高く、高度な職人技によって作られた商品の販売促進に力を注ぎました。
季節パターンは、第4四半期に需要が一段と増加することを示唆していますが、金価格が極めて高い水準に留まっていることから、需要量は長期平均を大きく下回る公算が高くなっています。国際的な金価格の高騰は、10月初旬に8日間にわたって休日が続く国慶節の間における金宝飾品の売れ行きにブレーキを掛けました。さらに、来年の春節は例年より遅いため、小売業者の補充や金にとっては伝統的なピークシーズンである旧暦年末の買い物も先送りになることが考えられます2。
明るい話題としては、通貨政策や金融政策のさらなる緩和の可能性に加え、金価格安定化の可能性が、金宝飾品需要を下支えすることが考えられます。
インドの宝飾品需要は118トンで、2020年以来の低調な第3四半期となりました。これは、今期中に117,000ルピー/10gを突破した現地金価格の高騰に起因するものです。
金額ベースの需要には底堅さがありました。1兆1,430億ルピー(130億米ドル)に達した今期の支出額は、インドの輸入関税引き下げを受けて需要が9年ぶりの高水準に急上昇するなど絶好調だった2024年第3四半期に匹敵するものです。年初来の需要額は記録となる2兆5,130億ルピー(290億米ドル)に達しました。
国内金価格の上昇幅は、今期現地通貨が下落したために拡大しました。これに加えて、重要な祝祭がなかったことや婚礼が少なかったことが、7月と8月の宝飾品購入を抑制する結果になりました。
しかし、9月になると需要に火がつき、価格が上昇したことで、消費者はさらに値上がりする前に購入しておこうと動き始めました。関係筋の話によると、(15日間に及ぶ、金購入には不吉とされる期間である)シュラッドが終わる9月21日に需要が殺到したとのことです。
価格上昇によって軽量で低カラットの商品に対する需要が高まっただけでなく、消費者も新しい金製品を直接購入せず、古い金宝飾品と交換することを望むようになっています。さらに、需要が宝飾品から低マージンで小さな投資商品へと移りつつあります。
インド国内各地で、伝統的な22K宝飾品に代わって、18Kのシンプルな宝飾品が受け入れられるようになっています。しかし、富裕層の消費者による需要はこれまでのところ堅調であり、比較的好調な高額宝飾品の売れ行きにそれが表れています。
今期、インドの消費者の間で金宝飾品を融資の担保として差し入れる動きが続いていることが確認されました。データから、今年に入ってからこれまでに、消費者が融資の担保として差し入れた金が220トンに達していることが分かっており、リサイクル金の国内供給量が抑制される結果になっています。
今期、現地金価格の高騰によって、トルコ国内の宝飾品需要にかなりの圧力がかかることになりました。第1から第3四半期までの26トンという需要は、金価格が平均1,769.6米ドル/オンスだった2021年と同水準です。
トルコのインフレは依然非常に厳しく、消費者心理のみならず、購買力にもマイナスの影響を及ぼしています。国内および周辺地域の地政学的緊張も、市場の低迷に影響を与えています。
中東の事実上すべての市場で需要が低迷しており、急騰する金価格が購買力を低下させ、高カラットの宝飾品の売り戻しに拍車がかかり、地域の地政学が消費者心理を蝕んでいます。例外はイランで、安全資産としての投資購入により、金宝飾品需要の前年比が増加しました。
米国の宝飾品需要は、2022年第2四半期から続く下降傾向がさらに拡大しました。25トンという需要は、第3四半期としてはワールド ゴールド カウンシルのデータシリーズ中で2000年以来の低水準です。
それとは対照的に、金額ベースの需要は増加に増加を重ねる結果となりました。今期、米国の金宝飾品支出は30億米ドルで、9期連続で前年同期比がプラスとなりました。
需要減少の原因は金価格の高止まりであり、そのため購買力への影響が続き、消費者は低カラット、軽量の商品へと移り、購入頻度も減少することとなりました。
欧州の市場では宝飾品の数量が例外なく減少し、中でも最も顕著な減少が見られたのがフランスでした。世界的な傾向を反映して、金額ベースでの需要はプラスであり、消費者が金宝飾品にもっと支出する意志があることが示されましたが、量は減少しました。
ワールド ゴールド カウンシルがデータを公表しているASEAN市場では、今第3四半期、記録的な高価格が消費者の購買力を圧迫したことで金宝飾品の数量が総じて減少しました。この地域の大半で、量ベースでの顕著な弱さとは対照的に、金額ベースでの需要は前年同期比で2桁増を記録しました。
金額ベースの需要も前年同期比でマイナスとなったのはインドネシアだけでした。厳しい経済情勢下で、金価格の高騰と物価の上昇による制約を受け、消費者は低カラット商品への移行を続けています。
日本では2桁の減少の結果、今期の宝飾品需要はわずか3トンと過去最低を記録しました。喜平チェーン(準投資として購入されることの多いシンプルなチェーン)の需要は堅調で、一定程度の下支えとなりました。報道によると、10月に価格が急上昇し、国内需要が爆発的に増加したため、この傾向に拍車がかかったとのことです。
韓国の宝飾品需要の下降傾向は今期も続きました。消費は、婚礼シーズンや、さらなる価格上昇を見込んで消費者が購入を前倒ししたことが下支えとなりました。それでもなお、低カラット商品を求める傾向が続いたことで、量は減少しました。
今期のオーストラリアの金宝飾品需要は、9期連続で前年同期比が減少しました。高価格により量が減少したものの、米ドル建ての需要額はかえって増加しました。
| 2024年 第3四半期 |
2024年 第4四半期 |
2025年 第1四半期 |
2025年 第2四半期 |
2025年 第3四半期 |
前四半期比変化率 (%) |
前年同期比変化率 (%) |
|
| インド | 171.6 | 189.8 | 71.4 | 88.8 | 117.7 | 33 | -31 |
| パキスタン | 4.0 | 4.6 | 4.2 | 4.1 | 3.7 | -10 | -8 |
| スリランカ | 1.1 | 1.3 | 1.0 | 1.2 | 1.0 | -22 | -11 |
| 中華圏 | 109.5 | 114.2 | 132.5 | 73.8 | 90.4 | 22 | -17 |
| 中華人民共和国本土 | 102.4 | 106.1 | 124.9 | 69.2 | 83.8 | 21 | -18 |
| 香港特別行政区 | 6.2 | 7.1 | 6.4 | 3.7 | 5.8 | 54 | -7 |
| 台湾 | 0.9 | 1.0 | 1.2 | 0.9 | 0.8 | -2 | -7 |
| 日本 | 4.0 | 4.2 | 3.0 | 3.1 | 3.4 | 9 | -15 |
| インドネシア | 5.4 | 7.7 | 4.1 | 3.3 | 3.8 | 12 | -30 |
| マレーシア | 2.3 | 2.6 | 3.8 | 2.5 | 2.3 | -9 | -2 |
| シンガポール | 1.5 | 1.6 | 1.7 | 1.5 | 1.4 | -8 | -8 |
| 韓国 | 2.7 | 2.8 | 4.1 | 2.6 | 2.5 | -6 | -8 |
| タイ | 2.4 | 2.9 | 1.7 | 1.6 | 2.1 | 30 | -10 |
| ベトナム | 2.6 | 3.3 | 3.5 | 2.5 | 2.2 | -9 | -15 |
| オーストラリア | 2.0 | 2.9 | 1.3 | 2.3 | 1.8 | -22 | -10 |
| 中東 | 35.9 | 43.4 | 45.1 | 39.8 | 33.8 | -15 | -6 |
| サウジアラビア | 10.5 | 12.3 | 14.6 | 11.2 | 9.8 | -12 | -7 |
| UAE | 7.1 | 8.8 | 7.9 | 7.7 | 6.3 | -18 | -10 |
| クウェート | 2.6 | 3.5 | 2.4 | 2.7 | 2.4 | -9 | -7 |
| エジプト | 5.1 | 6.3 | 6.4 | 5.7 | 4.4 | -23 | -15 |
| イラン | 6.2 | 6.8 | 7.2 | 7.3 | 6.5 | -11 | 6 |
| その他の中東 | 4.4 | 5.7 | 6.6 | 5.2 | 4.4 | -15 | -1 |
| トルコ | 9.4 | 11.9 | 8.9 | 9.0 | 8.5 | -6 | -10 |
| ロシア連邦 | 10.6 | 11.6 | 7.5 | 8.0 | 10.1 | 27 | -5 |
| 米州 | 37.1 | 61.3 | 31.7 | 39.8 | 33.4 | -16 | -10 |
| 米国 | 27.8 | 47.0 | 23.3 | 29.5 | 24.6 | -17 | -12 |
| カナダ | 2.4 | 5.5 | 2.6 | 3.0 | 2.2 | -26 | -7 |
| メキシコ | 3.4 | 3.7 | 2.8 | 3.2 | 3.2 | 0 | -5 |
| ブラジル | 3.5 | 5.1 | 3.1 | 4.0 | 3.3 | -17 | -5 |
| 欧州(CISを除く) | 12.5 | 28.8 | 10.0 | 13.9 | 11.2 | -19 | -10 |
| フランス | 1.9 | 5.9 | 2.3 | 2.4 | 1.4 | -40 | -23 |
| ドイツ | 2.0 | 4.1 | 0.9 | 2.3 | 1.9 | -19 | -5 |
| イタリア | 2.8 | 9.0 | 2.3 | 3.6 | 2.5 | -29 | -10 |
| スペイン | 2.0 | 2.6 | 1.9 | 2.0 | 1.9 | -4 | -5 |
| 英国 | 3.9 | 7.2 | 2.5 | 3.6 | 3.5 | -4 | -10 |
| スイス | - | - | - | - | - | - | - |
| オーストリア | - | - | - | - | - | - | - |
| その他の欧州 | - | - | - | - | - | - | - |
| 小計 | 414.5 | 494.8 | 335.4 | 297.8 | 329.2 | 11 | -21 |
| その他・在庫変動 | 45.5 | 53.9 | 47.0 | 43.4 | 42.2 | -3 | -7 |
| 世界合計 | 460.0 | 548.7 | 382.4 | 341.2 | 371.3 | 9 | -19 |
出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル