2026年も、地政学的緊張が金の先行きを大きく左右する可能性が高く、旺盛な中央銀行需要や金ETFへの流入、堅調な金地金・金貨需要を引き続き下支えしていくことが確実視されています。宝飾品の低迷は続くことが予想され、リサイクルが大幅に増加する可能性は低いと思われます。
- 債券市場の不確実性をはじめ、政策金利引き下げ観測、米ドルへの下押し圧力が、金投資分野全般の強さを支える主要因になる可能性が高くなっています。
- 経済ショックがない限り、宝飾品への支出は健全な状態が続くはずですが、重量ベースでの需要は2025年同様、低迷することが予想されます。
- 中央銀行需要は、2025年に近い堅調な水準で推移するものと思われます。
- 鉱山供給とリサイクル金は2025年並みの水準で推移する見込みで、鉱山会社は高い利益率のおかげで意欲的であり、リサイクルは堅調ながらも制約がかかるでしょう。
図2:旺盛な投資と中央銀行需要が宝飾品の低迷を補完:供給側の反応は控えめ
金の年間需要の変動予測*
GDT FY 2025: Outlook Chart 1 [JP]
出所:
メタルズ・フォーカス,
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
投資
2026年、投資のカギとなるのは地政学であり、世界中でリスクプレミアムが増加するでしょう(図3)。分断が進む世界で、リスクプレミアムが引き下げられると予想する理由はほとんど見当たりません1。ワールド ゴールド カウンシルによる2026年の見通しにあるようなさまざまな要因に加え、債券よりも全天候型ヘッジである金の魅力は、2026年のみならずおそらくその先も、投資家から旺盛な需要を引き出し続けることでしょう。
2025年の北米の金ETF需要は極めて旺盛でしたが、累積フローは過去の好調期に比べると控えめであり、運用残高も他の資産に比べると低水準のままでした。さらに、アジアの需要増は始まったばかりで、欧州の運用残高も過去のピークを大きく下回っているため、追加投資の余地は十分残されています。短期/中期的に見た場合、堅調な需要の継続にとっておおむね好ましい状況にあります。
- 実質金利は下がっています(2026年に入って、米国の2年物インフレ連動国債の利回りはすでに約20bps下がっています)。
- クレジットスプレッドが歴史的低水準近くに留まっている一方、債券の変動性は高まりつつあります。
- 株式は、極めて楽観的な想定に基づいて買われています。
- 米ドルは、 実質実効為替レート(REER)ベースでは割高な状態が続いています。
- 地政学リスクは高い状態が続いています。
- 中央銀行は、持続的買いの安定化要因となっています。
かつて低迷していた欧州の投資意欲が回復しつつあります(図4)。2025年、金地金・金貨需要は米国を上回りましたが、ETFフローは、米国の買いに比べると低調でした。
図3:地政学リスクの高まりが債券市場全体に及ぼす浸食作用
10年物米国債利回りの推計タームプレミアムとG7地政学リスクスコア*
GDT FY 2025: Outlook Chart 2 [JP]
出所:
ブルームバーグ,
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
*2022年第1四半期から2025年第4四半期までのデータ。各国のACMモデルに基づいたタームプレミアム。G7地政学リスクスコアは、ブルームバーグが作成したG7に関するGeoQuantの政治的リスクスコアの合成指数。
ワールド ゴールド カウンシルのモデルでは、信用不安の再燃や金利の低下、あるいは想定外のインフレ動向によって、需要が一段と加速される可能性が示されています。
2026年、インドの金地金・金貨需要と国内ETFは好調を維持するでしょう。株式は、割高な評価水準や関税、国外流出の状況下で低調に推移し、魅力が低下する可能性があります。宝飾品から純粋な投資需要への段階的移行は今後も続き、金地金・金貨需要を下支えするものと思われます。
中国の金地金・金貨需要は、価格モメンタムに加え、金利低下の可能性、地域的緊張、インドと同様の宝飾品から投資へのシフト、持続的な不動産市場の不振などからも恩恵を受けることが見込まれています。金ETFも同じように、これらの要因に基づく継続的な積み増しが生じる状況にあると見られています。
OTC需要は追跡が困難ですが、残余誤差と在庫変動を考慮すると2025年は、公表された主なデータが示すよりも健全であった可能性があります。ワールド ゴールド カウンシルが市場関係者とのやり取りから得た情報では、需要は依然として堅調であり、原則論から見ると、やがて他の投資分野と同様の要因によって同じ方向に進んで行くことが考えられます。
ニューヨーク商品取引所(COMEX)のマネージド・マネー・フューチャーズポジションは2025年の傾向に反して173トンの減少でした。これは、より戦略的な金現物の保有への移行を反映しているとも考えられます。ただし、今第4四半期の基本価格の上昇と変動幅の拡大が、一部の投機筋がポジションを縮小する原因になった可能性があります。動機の如何にかかわりなく、現在のポジションには流入の余地があり、また高水準のネットショートと違い、高水準のネットロングは価格動向の有効な予測指標にならないという一般的パターンをあらためて示しています2。
それでも、価格モメンタムが極めて強いことから、利益確定売りに伴って投資の引き上げリスクが依然としてかなり大きいことは指摘しておくべきでしょう。
図4:高まる欧州投資家の意欲
米国と欧州の重量ベース金ETF累積需要と金地金・金貨需要*
GDT FY 2025: Outlook Chart 3 [JP]
出所:
ICEベンチマーク・アドミニストレーション,
メタルズ・フォーカス,
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
*2023年第1四半期から2025年第4四半期までのデータ。
加工
中国では、新たなVAT制度が、すでに軟調だった宝飾品市場に下押し圧力をかけることになりましたが、2026年にはその影響は薄れていく可能性があります。(初めてリテール投資を下回った)宝飾品需要は比較的低水準に留まりました。価格上昇が今年より穏やかであると仮定すると、2026年は底打ちとなる可能性があるものの、最も高いのは横ばいになる可能性でしょう。
中国は、リサイクル量の増加にも大きく貢献しました。高い価格感応性、相次ぐ店舗閉鎖、在庫調整などがすべて増加を促しました。2026年初頭のデータでは、過去の増加を下回るものの、季節性のリバウンドが確認されました。重要なのは、支出額が健全なレベルに留まっていて、需要破壊がないことを示唆している点です。消費者が高価格に慣れるにつれて緩やかな回復が見込まれますが、大幅な価格上昇がさらに1年続けば、回復にブレーキがかかることになるでしょう。
インドでも同じようなことが起こっています。金額ベースでの宝飾品需要は旺盛なのですが、価格の高騰によって需要がより軽量の商品へと流れて行くようになりました。大きな違いはマクロ経済です。インドの今後の見通しは明るく、中国に比べれば、より確実に需要を下支えすることになるでしょう。
異なる経済情勢にかかわらず、世界ベースの宝飾品の低迷は、価格感応性が各国に影響する共通の要因であることを示しています。テクノロジー需要はおおむね安定的に推移してきましたが、AI関連のボトルネックと米国の関税による二次圧力を受けており、2026年も影響が続く可能性があります。
中央銀行
中央銀行による購入の次の段階がどのようになるかを予測することは本質的に困難です。ワールド ゴールド カウンシルの中央銀行調査の結果は7ヵ月前のものであり、その間に金価格は少なからず変動しており、回答で示された方向性は発表時に比べると弱まっていると思われます。多くの銀行が金を公式準備の枠組みの外で管理しており、金額よりも量をターゲットとしている銀行もあります。そのため、総需要に対する単一の「飽和点」(satiation point)を特定することは有効とは言えません。
より明確な根拠を提示してくれるのがIMF COFERデータです。世界全体の金保有量が外貨準備に占める割合は1990年代初めの水準にようやく近付きつつあります(図5)。当時は所有権が限られた者に集中していて、おそらくは金を所有することに対するインセンティブも今ほど強くありませんでした。ワールド ゴールド カウンシルの調査は中央銀行の戦略的意欲を測る上で依然として非常に有効であり、他の組織的取り組みを補完する役割を担っています。
図5:公式外貨準備高に占める金の割合が回復
金、米ドル、ユーロ、日本円が公式外貨準備高におけるシェアを獲得*
GDT FY 2025: Outlook Chart 4 [JP]
出所:
ブルームバーグ,
メタルズ・フォーカス,
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
*1990年1月から2025年12月31日までのデータ。IMF COFERデータは中央銀行と金融当局の準備高を通貨別に集計したものである。メタルズ・フォーカスによる未公表の中央銀行累積準備高を、COFERデータとは別に公表されているIMF準備高に加算した。
供給
生産者にはヘッジに対する関心がほとんどなく、価格変動を全面的に受け入れてきました。2025年は金採掘業者にとっても素晴らしい1年でした。ただし、価格下落予想によって警戒感が高まる可能性があります3。ヘッジ行動はコール売りに代わって、プット買いへと移行したものの依然限定的であり、鉱山会社が価格上昇の恩恵を受けつつ、下落に対するある程度の保護も望んでいることを示唆しています。
とはいえ、現在のレベルを超える生産拡大は困難です。
リサイクル
リサイクルに対する反応は地域によって異なりました。長期的に見た場合、リサイクルは消費者需要と処分可能な在庫に依存します。短期的には、価格が支配的要因であり、経済危機は、アジア通貨危機や世界金融危機のような大規模な景気後退の場合にのみ、行動に大きな影響を与えます。
価格高騰に対する反応が驚くほど鈍い点については、消費者に売却の必要がないこと(経済的に困窮していないこと)、あるいは(価格上昇が続くという期待で)売却意欲が低いこと、さらにインドに見られる下取りや担保を利用した購入という傾向によって説明できます。
図6は、過去4年間のリサイクルがそれ以前の20年間に比べてどの程度低調だったかを示しています。また、価格への期待と経済的困窮という指標を考慮した場合も、この感応性の低下は成立します。地政学リスクプレミアムが売り渋りを助長すると同時に、需要を押し上げる主要要因になっている可能性があります。ただし、経済成長が大きく減速した場合、消費者の中にニーズを満たすため金を売却する動きが出てくることが考えられます。
図6:近時、価格変動への反応が弱まったリサイクル
リサイクルと金価格の関係の四半期ごとの変化*
GDT FY 2025: Outlook Chart 5 [JP]
出所:
ICEベンチマーク・アドミニストレーション,
メタルズ・フォーカス,
ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項
*2000年第1四半期から2025年第4四半期までのデータ。図に示されているのは、スポット金価格(米ドル/オンス)の前四半期比変化率(%)とリサイクル量の変動との関係である。このサンプルは、2022年第2四半期の前と後に分けられている。「4.8x」と「1.6x」は、金価格が1%変動した場合の関連トン数の変化を示している。この関係は、リサイクルのレベルを見た場合も、リサイクルの前四半期比の変化を見た場合も成り立つ。このことは、世界的な失業水準(困窮、すなわち売却の必要性の代理値)と、ブルームバーグ商品予測の寄稿者による金の1年先の中央値予測(金を保有し続ける動機)をコントロールしても成り立ちますが、傾きは小さくなります(3.6x)。