今後の見通し

31 July, 2025

ワールド ゴールド カウンシルの2025年度需給予測は、年央見通しで取り上げたダイナミクスを反映するものとなっています。

  • ワールド ゴールド カウンシルでは、金を裏付けとするETFはさらに上振れする可能性があるものの、下半期には、再び増加に転じる前に短期的な逆風に直面する恐れがあると考えています。 
  • リテール投資は堅調であり、下半期も若干の軟化がある程度とみています。
  • トンベースの宝飾品需要の低迷には価格が大きく関わっています。ただし、大半の地域で経済の推進要因に陰りが見えてきたことから、下半期の価格上昇が緩やかになるという基本的シナリオの場合は、大幅な回復は見込めません。  
  • 旺盛なAI関連の支出によって、高価格や経済成長の鈍化、関税などの問題が相殺され、テクノロジー分野の成長は今後も続くとみられます。
  • 中央銀行需要は、今期の減速を受け、若干下方修正されました。しかし、ワールド ゴールド カウンシルでは、下半期においては価格は大きな障害ではなくなり、需要の急速な伸びが続くものと考えています。
  • 上半期に上昇した生産者マージンは今後も高水準を維持する可能性が高く、増産の継続と新規鉱山からの供給が促進され、今年(2025年)、生産量が記録的レベルに達することが見込まれています。 
  • リサイクルは増加が見込まれていますが、金価格は古い宝飾品のマネタイゼーション(売却による現金化)に大きな影響を受けるため、増加幅は予想ほど大きくならない可能性があります。
 

図2:投資は堅調、加工は底打ち、中央銀行は縮小、供給は反応

年間金需給の変動予測*

投資

下半期には、より多くの機関投資家にとって、米ドルの重要性が一段と高まる可能性があり、また構造的要因による中期的な米ドル安については確かなコンセンサスと根拠があります。1しかし、関税問題や税金に関わる懸念、外為リスクヘッジを背景に、上半期の売却が極めて多かったことにより、米ドルが、主要相手通貨であるユーロに対して、金利差に基づいて導き出される公正価値を大きく下回る水準にまで下落することもあり得ます2。そのため、ショートスクイーズのリスクが生じ、短期的な金投資が阻害される恐れが生じてきます。

これまで度々指摘してきたように、金投資家は長期債券利回りの変動に対してあまり敏感ではありません。また、株と債券の相関性が強まったことで、この状況は今後も続くことが考えられます3。しかし、9月以降に予想される政策金利の引き下げは、機会費用の観点から、金に対する投資家の関心をさらに高める可能性があります。

上半期の世界全体におけるETFへの流入は好調でしたが、そのスタート時点でのレベルはかなり低いものでした。12ヵ月間の流入ペースは歴史的に見て極端な水準ではなく、特に下支えとなるファンダメンタルズの好調さを踏まえれば、さらなる増加の余地があると見ています。このことは、OTC投資についても言えます。したがって、ワールド ゴールド カウンシルでは、流入は続くものの、上述した近々起こり得るさまざまな問題から、上半期よりもペースは落ちると予想しています。

今期、中国のリテール投資は宝飾品を上回りました。また、不安定で地政学的緊張が高まる現在の情勢では、消費者にとって頼れる選択肢となる可能性があります。ただし、需要を押し上げたのは大幅な価格上昇であり、その価格上昇が沈静化すれば、下半期の投資は上半期より若干減少することが考えられます。

同様の要因はインドでも見られ、価格がセンチメントを後押ししています。おそらく、違いがあるとすれば国内株式市場が果たす役割でしょう。中国経済の成長に対する米国の関税の影響は上半期よりも下半期の方が強まることが考えられ、それがさらなる緩和を促す可能性があります4。このことは、他の条件がすべて同じなら、比較的割安な株式に勢いを与えるとともに、金投資を抑制することが考えられ、過去数年、金の魅力を支えてきた理由の一つとして株式の低迷が挙げられていることを考えると、その可能性は十分あります。対照的に、インドの株式市場は過去数年、上昇傾向にあり、現在の評価額はかなり割高になっています。大方の見立て通り、経済が上半期に比べて下半期にやや軟調となれば、この仮説的な”金需要の逆風”は弱まる可能性があります5。ただし、これは景気の弱さではなく、関税によるブレーキであり、工業生産は増加する見通しです。

 

図3:今のところ発生の可能性が低い投げ売り

リサイクルの多い市場における実質可処分所得の伸び

宝飾品

中国の宝飾品小売業者にとっては下半期の展望も明るいものではありません。おそらく唯一の明るさは、大幅な価格上昇に対する感度を考えた場合、プラチナは大きな問題にはならないと思われる点です。もうひとつ、高い貯蓄率によって下半期にある程度の購買余力が見込まれますが、おそらくは、景気刺激策と2026年以降についての明るい見通しが必要になるでしょう。インドの場合、経済は依然堅調ですが、下半期に多少軟化することが予想されます。高価格と相まって、消費者が価格高騰への適応に、これまでより時間を要しているようで、宝飾品需要は低迷が続く可能性があります。

この問題は、他の分野においても見られます。価格が横ばい、ないし低下しても、可処分所得が堅調な環境で見られるような反応は起こりません。したがって、ワールド ゴールド カウンシルは、宝飾品需要は低調という通年予想を維持します。

リサイクルは供給源である一方、宝飾品と密接な関わりがあります6。特に、(交換や担保付融資の場合を除き)中古宝飾品を下取りに出して新しい宝飾品を購入する流れが伝統的に盛んなインドと中国では、その関わりは深いものがあります。

殊に、ここ数四半期は、価格高騰によってリサイクルが抑制されていました。理由としては次のことが考えられます。

  • 地政学的リスクプレミアム-中東に関しては明白な事実と報告されています。
  • 価格感度の変化-さらなる高価格を期待した金保有意欲-金宝飾品の下取りや売却による現金化が行われているインドでは明らかな事実です。
  • 経済危機の不在-減速はしているものの、実質個人所得は伸びており、危機が差し迫っていることを示す兆候は見られません。7

中央銀行

第2四半期に中央銀行による購入が減速したことで、ワールド ゴールド カウンシルでは年度予測を若干下方修正しました。しかし、中央銀行が金の分散特性を活用して、米国資産を金に移行するという長期的な傾向は、ワールド ゴールド カウンシルの年次調査の結果によって裏付けられており、今後も続くものと考えています。

一部の中央銀行では目標配分が金のさらなる積み増しの制約となる可能性がありますが、すべての中央銀行がこれに該当するわけではありません。特に、金を他の準備資産と分離して運用している中央銀行は当てはまりません。また、外貨準備の大幅な増加や金価格の低下の場合、購入が一段と加速される可能性があります。最後に、健全性の観点からすると、価格の大幅な上昇は積み増しにブレーキをかけることになるため、第2四半期の減速は驚くことではありません。同じような減速は2024年にも起こりました。現在は小康状態にあるものの、2025年以降も中央銀行に関しては前向きな見方は変えていません。

供給

ガーナ、カナダ、チリが中心となっている増産と新規プロジェクトによって、高いAISCマージンの後押しもあり、2025年度の生産量は新記録を達成するものと思われます。生産者が高価格へのエクスポージャーを選択するため、ヘッジは最小限に抑えられると見込まれています。ワールド ゴールド カウンシルの年央見通しによれば、さらなる価格の大幅下落の可能性があり、そうなれば一部の生産者は限界水準で価格を固定しようとすることが考えられます。

リサイクルは増加が予想されていますが、大幅なものではありません。懸念されるのは、インドで担保として差し出される宝飾品の量です。大幅な経済減速や金価格の暴落が起これば、そうした借入を返済するために強制売却が行われる恐れがあります。

脚注:

1Dollar exit could be crowded for some time | Reuters; US Dollar's Shifting Landscape: From Dominance to Diversification - Goldman Sachs Asset Management.

2Outlook for the US Dollar - Apollo Academy

3You asked, we answered: Are fiscal concerns driving gold? | Post by Jeremy De Pessemier の投稿 | ゴールド・フォーカス・ブログ | ワールド ゴールド カウンシル

4短期金利に関するブルームバーグのエコノミスト予測の中央値は、2025年第4四半期までに15~20ベーシスポイントの低下である。

5実質GDP成長率に関するブルームバーグのエコノミスト予測の中央値は、2025年第1四半期の7.4%から6.1%に低下する見込みとなっている。

6ワールド ゴールド カウンシルの推計では、リサイクルの90%以上は古い宝飾品が供給源となっている。

7出所:Oxford Economics baseline scenario Q2’25.

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