投資

31 July, 2025

投資需要の継続的強さが上半期としては2020年以来の好調をもたらす

  • 安全な避難先としての需要とモメンタムフローにより、金投資は高水準を維持しています。
  • 前期に引き続き金を裏付けとするETFの需要が好調だったことが投資増加の主な原動力となりました。 
  • 金地金・金貨も、主に中国と欧州で前年同期比が大幅に上昇し、順調な伸びを見せました。
トン 2024年
第2四半期
2025年
第2四半期
前年同期比
変化率(%)
投資 268.1 477.2 78
金地金・金貨 275.2 306.8 11
インド 43.1 46.1 7
中華人民共和国本土 80.0 115.1 44
金を裏付けとするETF -7.1 170.5 -

金に対する投資需要は、過去3年の間ほぼ連続して見られた上昇傾向がそのまま続きました。総投資需要は、金を裏付けとするETFへのかなり大規模な流入と金地金・金貨需要の堅調な伸びにより、前年同期比で78%のプラスとなりました。

目まぐるしく変化する米国の貿易政策、米ドル安、地域紛争の激化による地政学的緊張の高まり、インフレと経済成長の行く末への懸念、過去最高値更新によって新たな投資の流入を引き起こしている金価格など、第1四半期に金投資にとって極めて有利な環境を作り出した要因が、第2四半期にも大きく影響しました。

金は、株式市場の反発や米国労働市場の堅調さという逆風に直面しました。しかしながら、米国の経済政策の影響や今後のドルの動向に対する懸念は依然根強く、安全な避難先やリスク回避手段としての金の需要をしっかりと下支えしました。

事例報告によれば、世界中の機関投資家や富裕層投資家は、上述したのと同じ理由から、金に対する関心を保っているようです。こうした動きは、OTCや在庫フローの数値に反映され、今期の需要に新たに170トンが追加されました。こうした数値は、ワールド ゴールド カウンシルのモデルにおける、その他の需給バランスに関する推定値の統計残差も反映しています。

ETF

金を裏付けとするETFへの投資は、5月に若干の下落を記録したものの、前後の4月と6月に大幅な需要増があったことから、第2四半期全体では増加となりました。最終結果:今期、世界全体の運用残高は170トン増加しました。

第1四半期の需要227トンと合計すると、ETFにとって絶好調の上半期であったということができます。すべての地域で需要が好調であったことから、上半期に世界全体の運用残高は397トン増加し、2020年上半期に記録した過去最高の734トン以来、半期として極めて良いパフォーマンスとなりました。

金を裏付けとするETFへのモメンタム流入を引き起こした金価格の高騰のほかに、今期需要の主要なけん引役となったのが世界的な通商政策を巡って続く不透明性や、世界中で続く地政学的緊張の高まり、インフレ圧力の上昇に対する懸念です。

 

図6:世界中でETFの急速な流入が続きすべての地域で投資が増加

金を裏付けとするETFの地域別半期需要(トン)*

今期、北米の上場ファンドは73トン(80億米ドル)の増加を記録し、地域の総運用残高は1,857トン(運用資産残高は1,960億米ドル)となりました。

アジアの上場ファンドの需要は70トンで、北米ファンドの需要とほぼ同じでした。しかし、運用残高が北米ファンドの5分の1にも満たない321トン(350億米ドル)であることを考えると、極めて素晴らしい成長である。アジアの需要の大半は、61トンを追加した中国系ファンドによるものでした。ただし、現物の裏付けがあるインドと日本のファンドにも流入増が見られました。さらに、ワールド ゴールド カウンシルの分析では、金を裏付けとするETFを購入している日本の投資信託(ITM)は今期、20億ドルを調達したと思われます1

スイスと英国を合わせると、今期の欧州上場ファンド需要の75%以上(+24トン、10億米ドル)を占めており、それぞれの増加分は14トンと4トンでした。

一方、その他の地域の上場ファンドは今期、4トン(3億3,400万米ドル)の流入を記録しました。この増加の主な貢献者はオーストラリアと南アフリカです。

金を裏付けとするETFの地域別フローの詳細なレビューは、ETFフローに関するコメンタリーをご覧ください。

金地金・金貨

今期、金地金・金貨に対する世界全体の投資は引き続き順調で、前年同期比11%増の307トンとなりました。非常に好調だった第1四半期に比べると若干の減少(前四半期比6%減)ですが、過去5年間の同四半期平均である290トンは大幅に(6%増)超えました。2四半期連続で需要が非常に旺盛であったことで、今年度上半期は2013年以来の好況を呈しました。

 

図7:旺盛な今期の金地金・金貨投資が2013年以来の好調な上半期に貢献

主要市場別金地金・金貨の四半期需要(トン、金額)*

中国

中国の金地金・金貨需要は今期、115トンに達しました。非常に好調だった第1四半期の数字と合わせると、上半期合計は239トンとなり、前年同期比では26%の増加で、2013年以来最も好調な上半期となりました。金額ベースでは、今期の投資は過去最高の830億人民元(120億米ドル)に達しました2

今期、好調だった中国の金地金・金貨投資を支えた主な要因は次の4つです。

  • 経済問題に対する懸念。これが、安全な避難先としての金の魅力を高めました。
  • 強力な金価格モメンタム。これが、市場への参加を促しました。
  • 国内の株価指数が低迷して代替投資の選択肢が限定されていること、不動産価格下落の継続、商業銀行による金利引き下げ。これらのすべてが金価格の上昇をいっそう際立たせました。
  • 中国人民銀行による継続的な金の積み増し。これが前向きなシグナルを送ることになり、個人投資家たちはそれに呼応しました。

今年後半も、これらの要因が中国の金投資家にとって引き続き重要な意味を持つことは確実であり、金地金・金貨投資にとって好ましい環境が続くことを示唆しています。さらに、今年上半期に発表された、中国の保険会社による金市場への参入を認める規制緩和は構造的変革を示すものであり、国内投資家のさらなる参入を促す可能性があります3

インド

今期、インドの投資家は引き続き、金地金・金貨の運用残高を大幅に増やしました。46トンという需要は前年同期比で7%の増加であり、8四半期連続で増加したことになります。

価格モメンタムが好調なことで、金への関心の高まりが続いていて、投資家たちの価格上昇への期待はさらに大きくなっています。ただし、購買力に対する影響を、10グラム未満の金貨という小額商品に対する需要の増加に見ることができます。

現地調査によると、金投資家の間ではオンラインや電子商取引プラットフォームの人気が高まっていて、インドの金市場では、正規の取引業者から購入する傾向が強まっていることが示されました。
こうした見通しから、インドの金投資は今年1年を通じて安定的に推移すると思われます。各種経済指標は、農村部の健全な需要をはじめ、幅広い経済成長、(これまでのところ)十分な雨季降雨量など、引き続き明るい材料を反映しています。国際貿易の長期的混乱や地政学的緊張の高まりに加えて、インドでは金投資を支える環境が今後も続く可能性があります。 

中東とトルコ

トルコの投資は、過去数年間の非常に高い水準から急激な減速を続けています。需要は前年同期比で半減の15トンとなり、その結果、金額ベースでも前年同期比減の20億米ドルとなりました。

需要の動きは金価格と連動しており、4月に金価格は急騰したものの、その後投資家の関心が再び高金利の貯蓄口座に移ったことで、5月下旬と6月には下落しました。この需要パターンが反映された国内価格プレミアムは6月に1桁まで下がり、時には値引きさえもありました。事例報告によると、投資家が待っているのは決定的な強気な価格のシグナルか、価格下落における新たな購入機会のいずれかのようです。

中東の投資は31トンと好調でした。ただし、その陰にはもっと複雑な状況が隠れていました。いくつかの市場が2桁成長を達成した中で、サウジアラビアとエジプトでは前年同期比がマイナスとなり、特に今期後半には、金価格が過去最高値を突破できなかったことから、利益確定売りが見られました。

イランの投資は13トン超となり、過去6年間で最高を記録しました。安全な避難先としての需要をけん引してきた通貨安の継続と高インフレは、イスラエルとの軍事衝突の勃発によってさらに悪化しました。イスラエルとの軍事衝突から生じた懸念は、UAEの投資も押し上げました。

欧米

米国の投資需要は、前四半期比と前年同期比の両方で2桁の大幅な減少を記録しました。9トンという金地金・金貨需要は、2019年第4四半期以来の低水準です。

下落幅は非常に大きく、金額ベースの投資額は前年同期比で35%減の9億2,900万米ドルまで落ち込み、今四半期に(米ドル建て)投資額が減少した市場はわずか2つで、そのうちの1つとなりました。

米国の純投資家需要は、利益確定売りの急増と新規購入の低迷というダブルパンチを再び受けることになりました。一部の地金商品に対する関税の影響で、需要に混乱が生じました。一方で、利益確定売りが金価格の動きに反応して発生し、4月にはその売却ペースが金価格の動きと並行して急増したと伝えられています。その後、価格が横ばいとなって安定した6月には、こうした動きは急速に沈静化していきました。

今期の欧州における金投資は、米国とは大きく異なるものでした。欧州地域の需要は前年同期比で2倍以上の28トンまで増加しました。この大幅な増加は部分的には、2024年第2四半期の落ち込みに基づくベース効果によるもので、需要はここ数四半期は回復傾向が続いています。この傾向の最前線に立っているのがドイツであり、強気な価格予想とマクロ経済の不確実性増大とによって投資家の関心が高まっています。

利益確定売りは依然顕著に見られましたが、購買力に対する制約から、特に(1グラム、10グラム、20グラム、1オンスなど)軽量商品に対する新規需要が徐々に、それを上回るようになりました。

また、東欧諸国の一部では、悪化する政情不安やインフレ懸念を反映して、安全な避難先としての需要が高まっていることがフィードバックから明らかになっています。

ASEAN市場

ワールド ゴールド カウンシルがモニタリングしているASEAN地域の大半で、金価格の高騰と経済的・政治的な不確実性が相まって需要を押し上げたため、今期の金投資需要は非常に旺盛であったことが確認されています。前年同期比の2桁台後半の伸びが広い範囲で見られ、投資額もほぼ2倍まで増加しました。

ただし、ベトナムは例外でした。現地通貨の下落と米ドルの高騰とが重なって、国内金価格は記録的水準まで高騰しました。そのため、購買力に対して制約がかかり、需要が前年同期比で20%減少して9トンとなりました。しかし、長期的に見れば依然として高水準にあり、米ドルベースでは前年同期比12%増の9億9,700万ドルに達しています。

その他アジア諸国

今期日本では、金地金・金貨の利益確定売りが新規購入をわずかに上回り、四半期ごとの金投資は引き続き、若干のマイナス投資と適度な需要増加の間を行き来する状況を呈しました。

購入意欲は、市場に比較的最近参加し、小額品の購入を好む若い投資家がけん引していて、健全な状態に保たれています。事例報告によれば、これは、昔から金取引に関わってきた高齢のオーナーたちによる、高値での利益確定売りとは異なる動きです。

韓国の金地金・金貨需要は、前四半期の非常に高い水準からは減少したものの、前年同期比は30%増であり、過去5年間の同四半期平均に対しても13%増と健全な状態を保っています。通貨の下落と長引く政情不安、さらに金価格の高騰が重なり、投資需要を引きつけ続けています。

オーストラリア

オーストラリアの金地金・金貨投資は前年同期比18%の大幅増で4トンに達しました。4月と5月に金価格が上昇し、6月に落ち着きを取り戻す前に、購入意欲が強まったことが確認されています。前年同期比が順調だったのは、主にポジション解消が減少したことによります。インフレの緩和と金利引き下げを背景に、金価格が好調に推移したことで、金に対する投資家心理が改善されました。

表3:国別の合計金地金・金貨需要(トン) 

  2024年
第2四半期
2024年
第3四半期
2024年
第4四半期
2025年
第1四半期
2025年
第2四半期
前四半期比
変化率(%)
前年同期比
変化率(%)
インド 43.1 76.7 76.0 46.7 46.1 -1 7
パキスタン 4.5 4.1 5.6 5.0 4.8 -5 5
スリランカ - - - - - - -
中華圏 82.2 63.9 86.2 126.7 118.3 -7 44
中華人民共和国本土 80.0 62.1 83.6 124.2 115.1 -7 44
香港特別行政区 0.4 0.3 0.4 -0.4 0.8 - 117
台湾 1.8 1.4 2.3 2.9 2.4 -18 32
日本 4.6 0.1 -0.9 0.2 -0.5 - -
インドネシア 4.5 7.6 5.8 8.9 5.8 -35 29
マレーシア 1.6 1.5 2.3 2.5 2.0 -19 25
シンガポール 1.6 1.2 1.9 2.5 2.2 -12 37
韓国 4.1 4.2 5.9 7.0 5.3 -23 30
タイ 7.2 12.1 14.6 7.4 10.0 35 38
ベトナム 11.8 7.9 8.2 12.0 9.5 -21 -20
オーストラリア 3.1 2.5 3.6 3.1 3.6 16 18
中東 29.7 25.1 27.1 28.4 31.0 9 4
サウジアラビア 4.2 3.2 3.7 4.4 3.4 -23 -19
UAE 3.3 3.6 3.4 3.1 4.1 31 25
クウェート 1.6 1.6 1.5 1.4 1.9 36 20
エジプト 7.6 5.3 5.9 4.7 5.9 25 -23
イラン 10.9 9.5 10.4 12.7 13.1 4 20
その他の中東 2.1 2.0 2.2 2.1 2.6 25 23
トルコ 30.8 12.7 23.5 20.2 15.3 -24 -50
ロシア連邦 8.9 9.1 9.0 7.6 8.5 12 -5
米州 21.1 22.3 21.7 19.5 11.7 -40 -45
米国 18.9 19.9 18.6 15.9 8.8 -45 -53
カナダ 1.7 1.8 2.4 3.0 2.3 -22 41
メキシコ 0.2 0.2 0.2 0.2 0.1 -29 -14
ブラジル 0.4 0.5 0.5 0.4 0.4 -4 -5
欧州(CISを除く) 11.1 18.2 23.2 26.9 28.4 6 156
フランス -0.6 -0.3 -0.5 -1.2 -1.0 - -
ドイツ -2.0 3.5 8.7 10.5 10.9 4 -
イタリア - - - - - - -
スペイン - - - - - - -
英国 2.6 3.5 2.2 3.8 3.1 -19 17
スイス 5.1 5.0 5.4 5.8 6.3 9 24
オーストリア 0.5 0.6 1.1 0.6 1.1 65 97
その他の欧州 5.5 5.9 6.3 7.3 8.1 11 48
小計 269.9 269.2 313.6 324.3 301.8 -7 12
その他・在庫変動 5.3 1.5 11.1 0.3 4.9 1,525 -6
世界合計 275.2 270.6 324.7 324.6 306.8 -6 11

出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

脚注:

1これらのファンドが購入するのは金の現物ではなく、金を裏付けとするETFですが、それでも(通常は米国または欧州で上場している)ETFの保有を通じて金の保有残高の増加に貢献しています。

2それぞれ、純度99.99%の金の人民元建て四半期平均および米ドル建てLBMA金価格に基づく人民元建て価格と米ドル建て価格。

3それぞれ、純度99.99%の金の人民元建て四半期平均および米ドル建てLBMA金価格に基づく人民元建て価格と米ドル建て価格。

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