宝飾品

31 July, 2025

四半期として記録的な金価格のために、宝飾品需要はコロナ禍の水準まで下落 

  • 今期、世界全体の宝飾品消費量は2桁のマイナスとなり、341トンと2020年第3四半期以来の低水準まで落ち込みました。
  • 減少分の多くは中国とインドによるもので、この2ヵ国の市場シェア合計は50%以下まで低下しましたが、これは過去5年間でわずか3回しか記録されていない状況です。
  • 金額ベースでは、宝飾品消費は前年同期比21%アップの360億米ドルでした。
トン 2024年第
2四半期
2025年第
2四半期
前年同期比
変化率(%)
世界合計 395.6 341.0 -14
インド 106.6 88.8 -17
中華人民共和国本土 86.2 69.2 -20

今期、金価格が記録的高騰となったことで金宝飾品に対する値ごろ感が失われ、売買数量は引き続き減少しました。今期の需要は、過去5年間の同四半期平均487トンを30%下回りました。

ワールド ゴールド カウンシルが金宝飾品の消費調査を実施している31の市場のうち、イランだけが前年同期比で需要が増加し、その他の市場はすべて減少しました。

近年の金価格の高騰により、特にインドや中国など価格に敏感な市場において、消費量と消費金額の乖離が鮮明になってきています。数量ベースの場合とは対照的に、金額ベースの宝飾品需要はすべての市場で前年同期比増となりました。

 

図4:今期ほぼ全世界で宝飾品の量が前年同期比で大きく減少 その中心となったのはインドと中国

四半期ごとの宝飾品需要(トン、金額)*

中国

中国の金宝飾品需要は、前年同期比で20%減少し、わずか69トンでした。これは5四半期連続の2桁マイナスであり、需要は、同国がコロナ禍に見舞われた2020年第1四半期に記録した水準まで下がりました。それにもかかわらず、金額ベースでの需要は引き続き底堅く、金宝飾品への支出は前年同期比13%増の70億米ドル(530億人民元)に達しました。

今第2四半期が振るわなかったことで、上半期の金宝飾品消費量は194トンと、前年同期比28%の減少となりました。2020年を除き、上半期としては2009年以来の低水準でした。

減少を招いた要因は、2024年のときとほぼ同じでした。金の国内価格が急騰して消費者の購買力が下がり、消費者信頼感の低下と記録的水準に近い家計貯蓄に見られる持続的な消費者マインドの落ち込みが、金需要を一段と押し下げました。将来の成長や米中貿易摩擦に対する懸念など、より広範な経済的不確実性も消費者の慎重姿勢へとつながりました。

国内の金宝飾品業界では、小売販売拠点(POS)の減少が続いています。店舗数の減少は消費者による利用をある程度制限するものであり、需要の低迷を悪化させ、業界再編を加速させることになります。こうした傾向は短期的問題をもたらす一方で、採算ベースを下回る拠点の淘汰によって、最終的には市場に利益をもたらすと考えています。

金価格と消費者マインドは下半期においても引き続き、金宝飾品需要の主要推進役としての役割を果たすでしょう。中国では、家計貯蓄が記録的レベルで推移しており、金宝飾品などへの裁量支出は制限されています。長引く不動産市場の低迷や外部からの逆風が、消費者信頼感を圧迫し続ける可能性があります。それでも、金融緩和と財政刺激策が実施されれば、一定の下支えとなる可能性があり、季節性パターンは、第3四半期以降に中国の金宝飾品消費が前四半期比で徐々に回復することを示唆しています。

インド 

今期のインドの金宝飾品消費は、金価格が10g当たり10万ルピーという心理的節目を突破したことで、前年同期比17%減の89トンとなりました。その結果、上半期の需要160トンは、2000年第1四半期まで遡るワールド ゴールド カウンシルのデータシリーズ中で2番目に少なく、これを下回ったのは新型コロナウイルス感染症の直撃を受けた2020年(118トン)のみです。

金宝飾品の消費額は全く異なる傾向を示し、米ドルでの支出額は前年同期比17%増、前四半期比43%増となりました。

数量ベースでは、金の記録的高価格が購買能力に大きく影響しました。これは主に大量消費市場セグメントに影響を及ぼし、富裕層が購入する商品の平均重量は比較的変化しませんでした。

記録的高価格という状況下で、より軽量の品へと移る動きが続き、消費者の間では、手頃な価格の18金のシンプルな金宝飾品を好む傾向が強まっています。金メッキを施した銀の宝飾品の人気も高まっています。こうした市場の変化を考慮したうえで、インド標準規格局は先頃、9カラット宝飾品のホールマークを承認しました。

4月30日のアクシャヤ・トリティーヤに関連する祝祭需要には、一見したところばらつきがありました。積極的な販促キャンペーンやマーケティングキャンペーンを実施できる大手のリテール企業は売上が増加したことを公表しています。対照的に、小規模な独立系販売店では購入意欲が高くありませんでした。

インドの消費者は古い宝飾品を新しいものと交換したり、融資の担保に差し出すことを選ぶようになってきており、金宝飾品のリサイクルは今期、非常に低調でした。

第3四半期には祝祭シーズンや婚礼シーズンが始まるため、季節的な需要回復が見込まれる一方で、価格高騰が続く状況ことから、国内の金宝飾品需要に継続的な圧力がかかることが予想されます。

 

図5:記録的金価格により量と金額の乖離が一層拡大

上半期宝飾品需要の前年同期比の変動(トン、金額)*

中東とトルコ

トルコの金宝飾品需要(8トン)は前年同期比では6%減となったものの、金額ベースでは32%増の8億2,000万米ドルでした。今第2四半期は第1四半期の傾向がそのまま続き、金価格の上昇、長引く国内政情不安による消費者心理の悪化、インフレ率の高止まりなどの要因が重なり、需要への影響が生じました。

中東では、金価格の高騰と地域内で緊迫した状態が続いていることによって数量に抑制がかかり、金宝飾品の需要は広範囲にわたり前年同期比がマイナスとなりました。ただしイランは例外で、消費者が代替投資として金宝飾品を買い求めたことで、需要は前年同期比で12%増加しました。

米国と欧州

米国の金宝飾品消費は過去3年間の下落傾向が続き、前年同期比7%減の30トンになりました。ただし、金額ベースでは30%増の30億米ドルに達しており、際立つ対比を見せています。

合成ダイヤモンドの価格暴落が金価格の上昇を相殺し、宝石をあしらった金宝飾品の需要を下支えしました。

欧州の金宝飾品の数量は前年同期比で4%減少し、9四半期連続の需要減となりましたが、金額ベースでは前年同期比35%増の20億米ドルとなりました。金価格が1グラムあたり90ユーロ前後で推移し、消費者の購買能力を抑制する限り、宝飾品の取引数量には今後も圧力がかかる可能性があります。

ASEAN市場

ASEAN市場の金宝飾品需要は世界的傾向同様、数量は減少したものの、金額は前年同期比で増加しました。記録的な高価格により購買力がそがれ、地域全体で低カラット宝飾品へと嗜好が移っています。

インドネシアの需要は極めて脆弱で、ワールド ゴールド カウンシルが持つ25年間のデータシリーズで最低水準まで落ち込みました。貿易に関わる懸念と商品価格の下落により、経済が停滞し、消費者マインドも弱まっています。政府は消費を刺激するために数々の措置を発表しましたが、消費者心理の弱さから、下半期も金宝飾品の需要は低迷が続くものと考えられます。

その他アジア諸国

日本の金宝飾品消費は、価格高騰を受け、第2四半期としては2020年以来の低水準を記録しました。数量の減少は価格の上昇ほど大幅なものではなく、金額ベースでは需要は増加しました。

国内の宝飾品業界は比較的堅調であり、プラチナへの移行は見られるものの、日本の消費者は依然として金宝飾品に関心を持っています。

韓国の金宝飾品需要の落ち込みは、他の多くの市場ほど顕著なものではありませんでした。この底堅さの背景には、好調だった婚礼シーズンの売上と、金が持つ資産保全特性に対する絶えることのない関心があります。宝石商が、手頃な価格帯に属する(14金以下の)低カラット商品を増やしたことが売上の増加に結びつきました。

オーストラリア

世界的傾向同様、オーストラリアの宝飾品需要も、価格上昇によって購買力がそがれたことで、前年同期比10%減の2トンとなりました。ただし、金額ベースでは、金宝飾品に対する支出額は前年同期比で26%と大幅に増加しました。

表2:国別の宝飾品需要(トン) 

  2024年
第2四半期
2024年
第3四半期
2024年
第4四半期
2025年
第1四半期
2025年
第2四半期
前四半期比
変化率(%)
前年同期比
変化率(%)
インド 106.6 171.6 189.8 71.4 88.8 24 -17
パキスタン 4.3 4 4.6 4.2 4.1 -2 -5
スリランカ 1.7 1.1 1.3 1.0 1.2 20 -28
中華圏 92.1 109.5 114.2 132.5 73.8 -44 -20
中華人民共和国本土 86.2 102.4 106.1 124.9 69.2 -45 -20
香港特別行政区 4.9 6.2 7.1 6.4 3.7 -42 -23
台湾 1.0 0.9 1.0 1.2 0.9 -30 -17
日本 3.7 4.0 4.2 3.0 3.1 6 -15
インドネシア 4.3 5.4 7.7 4.1 3.4 -19 -22
マレーシア 2.7 2.3 2.6 3.8 2.5 -35 -8
シンガポール 1.6 1.5 1.6 1.7 1.5 -14 -8
韓国 2.8 2.7 2.8 4.1 2.6 -35 -6
タイ 2.1 2.4 2.9 1.7 1.6 -4 -20
ベトナム 3.1 2.7 3.3 3.5 2.5 -29 -20
オーストラリア 2.5 2.0 2.9 1.3 2.3 78 -10
中東 44.6 35.9 43.4 45.1 39.7 -12 -11
サウジアラビア 13.2 10.5 12.3 14.6 11.2 -23 -15
UAE 9.2 7.1 8.9 7.9 7.7 -2 -16
クウェート 3.1 2.6 3.5 2.4 2.7 10 -13
エジプト 6.8 5.1 6.3 6.4 5.7 -12 -17
イラン 6.5 6.2 6.8 7.2 7.3 1 12
その他の中東 5.7 4.4 5.7 6.6 5.1 -22 -10
トルコ 8.3 9.4 11.9 8.9 7.8 -13 -6
ロシア連邦 8.9 10.6 11.6 7.5 8.0 7 -10
米州 43.2 37.1 61.3 31.8 40.4 27 -7
米国 32.6 27.8 47.0 23.3 30.2 30 -7
カナダ 3.3 2.4 5.5 2.6 3.2 23 -3
メキシコ 3.4 3.4 3.7 2.8 3.2 14 -5
ブラジル 4.0 3.5 5.1 3.1 3.8 23 -3
欧州(CISを除く) 14.9 12.5 28.8 10.7 14.3 34 -4
フランス 2.9 1.9 5.9 3.0 2.8 -8 -2
ドイツ 2.5 2.0 4.1 1.0 2.3 147 -5
イタリア 3.7 2.8 9.0 2.3 3.6 52 -2
スペイン 2.1 2.0 2.6 1.9 2.0 3 -5
英国 3.8 3.9 7.2 2.5 3.6 48 -5
スイス - - - - - - -
オーストリア - - - - - - -
その他の欧州 - - - - - - -
小計 347.2 414.5 494.8 336.2 297.4 -12 -14
その他・在庫変動 48.4 45.5 53.9 47.2 43.5 -8 -10
世界合計 395.6 460.0 548.7 383.4 341.0 -11 -14

出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

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