テクノロジー

31 July, 2025

関税をめぐる不確実性が影響を及ぼし需要は減少

  • 第2四半期のテクノロジー分野における金需要は、前年同期比2%減の79トンでした。 
  • 産業界で最も金を使用するエレクトロニクス分野は、前年同期比2%減の66トンを記録しました。
  • その他産業需要と歯科需要も減少し、それぞれ前年同期比3%減の11トンと9%減の2トンでした。
トン 2024年
第1四半期
2025年
第1四半期
前年同期比
変化率(%)
テクノロジー 80.2 78.6 -2
エレクトロニクス 66.8 65.7 -2
その他産業用途 11.1 10.8 -3
歯科用途 2.3 2.1 -9

AI関連の用途やデバイスに使用された金の需要は好調を維持しましたが、第2四半期における総需要は小幅に減少して79トン(前年同期比2%減)でした。4月に発表された米国関税の90日停止がここに来て8月1日まで延長され,1 エレクトロニクス産業に引き続き不確実性をもたらしています。東アジアでは多くの生産者が関税発動に先立ち継続的に受注を前倒しすると同時に、サプライチェーン戦略を大きく変更しました。それでもなお、中国への輸出制限という課題が残り、その結果、サムスンなどの企業は今期の営業利益が大きく減少したと公表しています.2

前四半期にも述べたように、この状況で自信をもって先行きを予想することは困難であり、今後、需要データが修正される可能性が高いかもしれません。

エレクトロニクス

第2四半期においてエレクトロニクス製品に使用された金は、前年同期比で2%減少しました。関税と輸出制限により大きな不確実性が生じており、生産者への金価格圧力が高まっているため、この分野は難しい状況にあります。しかしAI関連部品の需要は好調を維持しており、先般の関税停止の後、家電製品の出荷は回復しました。2025年下半期も貿易問題が続くことは確実視されており、家電製品の売り上げを妨げる可能性が高いでしょう。大手データプロバイダーであるIDCは先頃、「関税によって生じる経済的不確実性および消費者支出の後退」に言及し、自社の2025年スマートフォン出荷予測を下方修正しました3

今期は、AI関連用途がメモリチップと半導体の需要増を支えました。通常サーバーとAIサーバーのいずれでも需要増が続いたことで、メモリチップの受注が好調に推移することになりました。パソコン生産者は、急遽注文を処理し、供給ー特に米国への供給ーを加速化することでさらに需要を高めました。今後の見通しとして、AIパソコンの採用が普及し、最終製品に様々なAI大型モデルが搭載されることにより、2025年のメモリ需要は高まるはずですが、スマートフォン出荷の減速が予想されるため、モバイル記憶装置分野の成長が頭打ちになるかもしれません。

プリント基板(PCB)分野も成長を実現しました。これを牽引したのはAIサーバーの継続的な性能向上であり、それによって高級チップの需要が増えるとともに、家電製品の出荷や低軌道衛星(LEO)関連の用途も好調を維持しました。しかし、今年の残り期間は、関税の状況により不確実になりそうです。

今四半期、発光ダイオード(LED)に使用された金は減少しました。これは主に、バックライトパネルーこの分野における主な需要源ーの受注減によるものです。中国のパネル生産者は、起こり得る関税問題とテレビ生産者の慎重な予測への対応として、パネル価格の更なる下落を抑えるために生産量を制限しました。家電製品や高度自動化システムに使用されるセンサーなど、他の需要分野は、紫外線硬化や医療用照明といったニッチ性の高い用途とともに、すべて好調を維持しています16F[.    紫外線硬化とは、紫外線(UV)光を使用してインク、塗装膜、接着剤その他の素材を急速に硬化または乾燥させる光化学過程である。]。それにもかかわらず、これらの分野における金使用量は今のところ、大量の主力製品の出荷減速を補えるほど十分ではありません。

ワイヤレス機器分野の需要は、今期減少しました。部品生産者は、関税問題への対応として控えめな生産戦略を実行することで、携帯電話機のパワーアンプ(PA)やWiFi用PAといった主要製品の生産量を減少させ、結果的に金使用量の顕著な減少が生じたと報じられています。こうした事情があるとはいえ、データセンターの継続的拡大や機器へのAIアプリ搭載の強化といった長期的な多くのプラス要因がこの分野の需要を支えているというワールド ゴールド カウンシルの見解に変わりはありません。また、3Dセンシングアプリケーションは、広範な家電製品に使用されることになると思われ、その一例は、画像化、測距、焦点調節といった機能を必要とするAIグラスです。

全体としては、世界の主要エレクトロニクス製品加工拠点4カ所のうち2カ所が今期の金需要の前年同期比増を報告し、韓国が7トン(2%増)、中国本土および香港特別行政区が20トン(2%増)を記録する一方で、米国は15トン(10%減)、日本は19トン(1%減)を記録しました。

その他の産業用途と歯科用途

その他の産業用途と装飾用途における金の使用(主にメッキ製品やインドの伝統衣装に使用される金糸)は、今期11トンと前年同期比で3%減少しました。中国の不安定な経済情勢は、高級品業界とメッキ産業における需要を弱体化しました。インドにおける需要は対照的に好調です。金価格の高騰により銀製宝飾品の金メッキ需要が後押されたためでしょう。

一方、歯科用途においてはセラミックという選択肢への置き換えが続くことにより、金使用量は2トンと前年同期比で9%減少しました。

脚注:

1本項執筆時における事実。

2Euronews.com Euronews.com | Samsung expects profits to halve as tariffs and export curbs bite | 2025年7月8日。

3Reuters.com | IDC cuts global smartphone shipments forecast on tariff volatility | 2025年5月29日。

4紫外線硬化とは、紫外線(UV)光を使用してインク、塗装膜、接着剤その他の素材を急速に硬化または乾燥させる光化学過程である。

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