供給
30 April, 2025
- 今期の鉱山生産量は856トンと微増し、第1四半期の最高記録となりました。
- 金のリサイクル量は、金価格が大幅に上昇したにもかかわらず1%減少しました。
- 今期の産金会社のネットヘッジは5トンで、ほとんどが負債による資金調達に関連するものでした。
トン | 2024年 第1四半期 |
2025年 第1四半期 |
前年同期比 | |
総供給量 | 1,194.2 | 1,206.0 | 1 | |
鉱山生産量 | 853.4 | 855.7 | 0 | |
産金会社のネットヘッジ | -8.8 | 5.0 | - | |
リサイクル金 | 349.6 | 345.3 | -1 |
今期の金の総供給量は前年同期比1%増の1,206トンでした。リサイクル量が345トンと前年同期を1%下回ったものの、鉱山生産量が856トンと、2000年にさかのぼるワールド ゴールド カウンシルのデータシリーズの中で第1四半期の最高値を記録したことが牽引しました。ワールド ゴールド カウンシルの推計による産金会社の合計ヘッジポジション正味残高が小幅に増加したことも、総供給量に寄与しました。通常通り、供給データの基本要素には将来的に修正が入る可能性があります。生産量とヘッジに関しては、四半期報告をまだ発表していない産金会社があること、リサイクルに関しては、記録的な金価格の高騰を受けて取引やリサイクルの正確な測定作業が困難になっていることが、その理由です。
鉱山生産量
第1四半期の鉱山生産量は856トンで、これまでの第1四半期の最高記録だった2016年の855トンをわずかに(1トン未満)上回りました。しかし前四半期比では、主に季節的変動の影響で、生産量が11%減少しました。
本稿公表時点で入手可能なデータに基づくと、第1四半期の生産量が顕著に増加したのは以下の国でした。
- チリは、2024年に悪天候の影響を受けたサラレス・ノルテ鉱山が通常オペレーションに戻り、前年同期比45%増加しました。
- ガーナは、アサンテ・ゴールドのビビアニ鉱山など既存オペレーションの拡張と、山東黄金のナムディニ鉱山の稼働による生産量の増加が相まって、前年同期比11%増加しました。
- カナダは、比較的新しいコテ鉱山やグリーンストーン鉱山などの稼働開始と、既存鉱山の生産量増加が牽引し、前年同期比4%増加しました。
- 中国は、金価格の上昇により低品位鉱山の利幅が拡大し、前年同期比2%増加しました。
これとは対照的に、いくつかの国では、掘削や地質に関する要因が重なってオペレーションに打撃を与え、第1四半期の生産量が減少しました。
- トルコは、コプラー鉱山の操業停止の継続と、オクサット鉱山の採掘順位決定の関係で、前年同期比25%減少しました。
- インドネシアは、バツ・ヒジャウ鉱山が第8操業フェーズに入って大量の廃土のストリッピングが必要になり、採掘順位決定が行われたことから、前年同期比16%減少しました。
- メキシコは、ロスフィロス鉱山で土地アクセス契約の終了後に操業が無期限に停止しており、モレロス鉱山でメンテナンスのための4週間の計画的な操業停止があったことから、前年同期比9%減少しました。
- オーストラリアは、カディア・バレーなど複数の鉱山で計画的な品位低下を行ったため、前年同期比3%減少しました。
すべての上場企業が2024年の年間生産量の報告を終えたため、同年のトレンドを完全に評価できるようになりました。昨年の金生産量は1%増の3,673トンで、金鉱山生産量の最高記録を更新し、2019年以降で初めて、主な産金会社が年初のガイダンスに沿った年間生産量を達成しました。
2024年第4四半期の金鉱業の全維持生産コスト(AISC)の平均値は、入手可能な最新データに基づくと前年比8%上昇し、過去最高の1,438米ドル/オンスに達しました。このように上昇したとはいえ、トンベースの処理量は一定で平均品位が上昇したため、同業界の2024年第4四半期の平均AISCは、前四半期と比べると低下しました。ただし、基本的なコスト圧力(特に金価格に連動するロイヤルティの支払いなど)が継続しているため、同業界のAISCが引き続き前四半期を下回る可能性は低そうです。
産金会社のネットヘッジ
第1四半期の産金会社のネットヘッジは、入手可能なデータに基づくと推計5トンです。今期は負債による資金調達に関連する新たなヘッジが報告されました。一方、すでに負債を抱える生産者では、期限切れとなったヘッジを置換する必要があるでしょう。しかし、投資家は金のスポット価格の上昇を最大限に享受することを好む傾向があり、全体的なヘッジ活動は限定的な状況が続きそうです。
リサイクル金
第1四半期の金リサイクル量は、金価格が何度も最高値を更新したにもかかわらず、前期比4%減、前年同期比1%減の345トンでした。四半期平均の金価格が上昇(前年同期比38%、前期比7%)したことを考えると、同じ期間にリサイクル量が減少したのは、やや意外です。しかし、ワールド ゴールド カウンシルが過去に説明した通り、リサイクルという点では、金価格の前四半期比の変化のほうが重要だと言えるでしょう。
ここ2年ほど金のリサイクル量は増加傾向にあり、四半期ベースの移動平均は過去10年の最高水準に迫っています。しかし長期的に見ると、リサイクル量は2011~2012年に見られた異例の高水準をかなり下回って推移しています。これは、金価格の上昇や、小売業者の宝飾品保有量が過去のピーク時よりも増えていることを考えると、非常に注目に値します。
このようにリサイクル量が比較的安定していた理由は、いくつかのグローバルな観点から説明できます。
- 金保有者は価格上昇への期待があるようで、さらなる値上がりを見込んで金を保有し続けています。
- 昨年は、金価格が急激に上昇し始めたことを受けて、多くの市場で大量の売り戻しが見られました。その結果、多くの国で放出可能な在庫が枯渇したようです。
- 現在のところ、投げ売りのエビデンスは限られています。
- 経済的、政治的なストレスのかかる国々では、他に安全な避難先としての選択肢が乏しいため、金はすぐに現金化する資産ではなく、最後まで売らずに保有するべき資産と考えられています。
すでに第2四半期の序盤で金価格がさらに上昇しており、リサイクル供給が反応するかどうかが興味深いところです。経済成長の鈍化と失業率の上昇によって、ある程度の投げ売りが生じるかもしれません。あるいは、金価格に対するあくまでも強気なセンチメントが続き、リサイクル量が比較的低い水準を維持するかもしれません。ワールド ゴールド カウンシルの年間のリサイクル供給の見通しについては、「今後の見通し」セクションをご覧ください。