宝飾品
30 April, 2025
- 金の記録的な高価格が、今期の世界的金宝飾品需要の動きを決定づけました。
- ほぼすべての市場で需要量が減少した一方で、金額ベースの需要はほぼ例外なく上昇しました。
- 中国は、国内消費者が厳しい経済環境に直面したことを背景に、金額ベースの需要が減少した唯一の市場となりました。
トン | 2024年 第1四半期 |
2025年 第1四半期 |
前年同期比 | |
世界合計 | 480.1 | 380.3 | -21 | |
インド | 95.5 | 71.4 | -25 | |
中国:本土 | 184.4 | 125.3 | -32 |
今期、世間の耳目を集めた金価格の上昇が宝飾品分野を席巻し、消費者の購入能力に影響を与えたことで、世界全体の販売量は380トン(前年同期比21%減)と大幅に減少しました。ただし、金宝飾品の消費額は前年同期比9%増の350億米ドルに達しました。中国を除くすべての市場で金額の増加が見られ、消費者に支出額を増やす意欲があることが示されました。
中国
金価格の記録的な高騰が、所得の伸び悩みと純金投資商品への移行と相まって、中国における金価格の急落を招きました。第1四半期は中国の金宝飾品市場にとって伝統的に需要が高まる季節ですが、今期の需要125トンは過去5年間で最低の数字であり、過去10年間の四半期平均を19%下回るものでした。金額ベースの需要の方はもう少し堅調で、前年同期比でわずか6%減の120億米ドル(840億人民元)でした。
記録的高値の更新が続く中で、消費者は模様眺めに徹したり、軽量で手頃な価格の商品に乗り換えたりしました。こうした過渡的な状況は、小売業者が春節休暇を前に在庫水準に慎重に対応したことにも反映されることとなりました。
今後数四半期は、値ごろ感が金宝飾品の消費に対し重大な影響を与えることになると予想しています。金価格が高止まりし、(通常、宝飾品販売のオフシーズンでもある)第2四半期に経済成長が鈍化した場合、重量ベースの金宝飾品需要はさらに減少するおそれがあります。
今期は、純金の投資対象(金地金、金貨、GAPなど)に注目が集まりましたが、特に他の国内資産のパフォーマンスが低下する中で、引き続き投資動機が金宝飾品購入の重要な推進力となりました。また、利下げが予想通り実施された場合、可処分所得が増加することが考えられ、それが今後の金宝飾品需要を支えることになる可能性があります。
表2:国別の宝飾品需要(トン)
2024年 第1四半期 | 2024年 第2四半期 | 2024年 第3四半期 | 2024年 第4四半期 | 2025年 第1四半期 | 前期比変化率(%) | 前年同期比 | |
インド | 95.5 | 106.5 | 171.6 | 189.8 | 71.4 | -62 | -25 |
パキスタン | 4.6 | 4.3 | 4.0 | 4.6 | 4.2 | -10 | -10 |
スリランカ | 1.7 | 1.7 | 1.1 | 1.3 | 1.0 | -18 | -41 |
中華圏 | 195.5 | 92.1 | 109.5 | 114.2 | 133.0 | 16 | -32 |
中国:本土 | 184.4 | 86.2 | 102.4 | 106.1 | 125.3 | 18 | -32 |
香港特別行政区 | 9.8 | 4.9 | 6.2 | 7.1 | 6.4 | -9 | -34 |
台湾 | 1.3 | 1.0 | 0.9 | 1.0 | 1.2 | 22 | -6 |
日本 | 3.2 | 3.7 | 4.0 | 4.2 | 3.0 | -30 | -8 |
インドネシア | 5.5 | 4.3 | 5.4 | 7.7 | 4.1 | -47 | -25 |
マレーシア | 3.9 | 2.7 | 2.3 | 2.6 | 3.8 | 45 | -4 |
シンガポール | 2.1 | 1.6 | 1.5 | 1.6 | 1.7 | 9 | -20 |
韓国 | 3.5 | 2.8 | 2.7 | 2.8 | 4.1 | 47 | 16 |
タイ | 1.9 | 1.9 | 2.4 | 2.9 | 1.7 | -41 | -8 |
ベトナム | 4.1 | 3.1 | 2.6 | 3.3 | 3.5 | 5 | -15 |
オーストラリア | 1.4 | 2.5 | 2.0 | 2.9 | 1.3 | -56 | -10 |
中東 | 42.8 | 39.7 | 33.7 | 40.9 | 40.8 | -0 | -5 |
サウジアラビア | 8.5 | 8.4 | 8.3 | 9.8 | 11.5 | 17 | 35 |
UAE | 9.6 | 9.2 | 7.1 | 8.8 | 7.9 | -11 | -18 |
クウェート | 3.1 | 3.1 | 2.6 | 3.5 | 2.4 | -30 | -20 |
エジプト | 8.0 | 6.8 | 5.1 | 6.3 | 6.4 | 2 | -20 |
イラン | 7.2 | 6.5 | 6.2 | 6.8 | 7.2 | 6 | 0 |
その他の中東 | 6.5 | 5.7 | 4.4 | 5.7 | 5.4 | -5 | -17 |
トルコ | 11.3 | 8.3 | 9.4 | 11.9 | 9.0 | -24 | -20 |
ロシア連邦 | 8.3 | 8.9 | 10.6 | 11.6 | 7.5 | -35 | -10 |
米州 | 33.1 | 43.2 | 37.2 | 61.4 | 31.8 | -48 | -4 |
米国 | 24.5 | 32.6 | 27.9 | 47.1 | 23.3 | -50 | -5 |
カナダ | 2.7 | 3.3 | 2.4 | 5.5 | 2.6 | -53 | -3 |
メキシコ | 3.0 | 3.4 | 3.4 | 3.7 | 2.8 | -24 | -5 |
ブラジル | 3.0 | 4.0 | 3.5 | 5.1 | 3.1 | -39 | 3 |
欧州(CISを除く) | 11.0 | 14.9 | 12.5 | 28.8 | 10.7 | -63 | -3 |
フランス | 3.2 | 2.9 | 1.9 | 5.9 | 3.0 | -49 | -4 |
ドイツ | 1.0 | 2.5 | 2.0 | 4.1 | 0.9 | -77 | -6 |
イタリア | 2.4 | 3.7 | 2.8 | 9.0 | 2.3 | -74 | -3 |
スペイン | 1.9 | 2.1 | 2.0 | 2.6 | 1.9 | -27 | 3 |
英国 | 2.6 | 3.8 | 3.9 | 7.2 | 2.5 | -66 | -4 |
スイス | - | - | - | - | - | - | - |
オーストリア | - | - | - | - | - | - | - |
その他の欧州 | - | - | - | - | - | - | - |
小計 | 429.5 | 342.3 | 412.4 | 492.3 | 332.5 | -32 | -23 |
その他・在庫変動 | 50.5 | 49.6 | 46.6 | 55.1 | 47.9 | -13 | -5 |
世界合計 | 480.1 | 391.8 | 459.0 | 574.5 | 380.3 | -31 | -21 |
出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル
インド
インドの金宝飾品需要が前年同期比で25%減の71トンとなった主な要因は価格でした。これは2020年以降で最も少ない量でしたが、需要金額は前年同期比で3%増加しました。
金価格が10グラムあたり9万ルピーという一つのカギとなる値を初めて突破したことで、値ごろ感への影響は避けられませんでした。消費者は、より小さい製品や軽い製品を購入するか、手頃な水準まで価格が下がることを期待して、購入を控えるようになりました。婚礼関連の需要は、その必要性から、比較的堅調に推移しました。
興味深いのは、記録的な価格水準がリサイクル増加の促進要因とならなかった点です。それはある意味、投げ売りの必要性がないインド経済の相対的強さを反映しています。代わりに、新しい宝飾品を購入する際に古い宝飾品を下取りに出す人が増え、今四半期末までに何らかの形の下取りが行われたケースが約40~45%に上ることが報告されています。
同様に今期は、ゴールドローンの増加という近年の傾向が続いていることが確認されました。ゴールドローンは金宝飾品を担保とする融資商品で、金価格の高騰から利用者が増えています。インド中央銀行に正式登録されている商業銀行の金宝飾品に対する貸付残高は2月末時点で前年同期比87%の増加でした。
金宝飾品需要は今期、大幅な減少となりましたが、価格が10グラムあたり10万ルピーに近づく中で比較的よく持ちこたえたといってよいでしょう。このような価格水準は宝飾品の購入量を引き続き抑制することになるでしょうが、センチメントは依然として非常に良好であり、インドの購入者は価格の下落を購入のチャンスと捉えていると思われます。祝祭や婚礼などの必要に応じた購入はおそらく持ちこたえるでしょうが、裁量による購入の減少を相殺するまではいかないと思われます。金融市場全体の混乱と不確実性が高まる中、価値の保全手段としての金の役割が一段と明白になってきており、消費主導から富の保全目的の購入へのシフトという消費者行動に反映されています。
中東とトルコ
トルコでは、金価格の高騰とともに政情不安が、今第1四半期の金宝飾品需要の混乱を招きました。需要は前年同期比で20%のマイナスでしたが、過去5年間の四半期平均である9トンという水準は維持しました。米国の関税を巡って生じた不確実性に国内需要の低迷が加わり、国内製造拠点の一つにおける加工業務が停止されるに至ったと報じられています。
中東の需要は前年同期比5%減となりましたが、サウジアラビアでの力強い成長がこの地域の大半で生じた急激な減少を相殺しました。この地域の宝飾品需要の減少は主に金価格が原因であり、UAEではインドの輸入関税引き下げによる追加圧力が続いていて、それがインド人観光客の需要に打撃を与えています。この傾向に抵抗しているのがサウジアラビアであり、ラマダン明けのイード・アル=フィトル祭の間は、価格上昇と祭礼需要の高まりが消費者センチメントを押し上げました。
米国と欧州
米国の宝飾品需要は数量ベースで前年同期比5%減でしたが、価格上昇により需要金額は32%増加して20億米ドルになりました。特に生活費上昇圧力が続く中、価格上昇が量の減少を招いた。失業率が低水準を保ち、「かっこいい金」製品の人気が続いているため、需要が落ち込むおそれはとりあえずありません。
今期、欧州の宝飾品需要の減少ペースがゆるやかになり、前年同期比では3%の減少でした。それとは対照的に、金額ベースの需要は前年同期比で34%増加しました。2月に金価格が1グラム当たり90ユーロを突破して過去最高値を記録したことに加え、停滞気味の経済環境も影響しました。限られた範囲ですが、一部の市場においては金からプラチナへのシフトがあった模様です。
ASEAN市場
ワールド ゴールド カウンシルのデータがカバーする限りにおいてASEAN市場は、金価格の記録的高騰に伴う需要の減少という世界的な傾向と軌を一にしています。一部の市場では、業者が、変化する消費者ニーズに応えようと取り組んでいます。例えばインドネシアでは、生産者たちが生産能力を低カラットの宝飾品にシフトすることで、より手頃な価格の商品に対する嗜好の高まりに対応しています。マレーシアでは宝石商が、古い宝飾品を下取りして新しい宝飾品を提供するというインセンティブを導入しました。下取りされた金宝飾品は宝飾品の消費に実質的影響を与えるものではありませんが、このプロモーションは売上を保ち、金宝飾品への関心を維持することを目的としたものです。
その他アジア諸国
今期、日本の宝飾品需要は前年同期比でわずかに減少しました。喜平チェーン(プレーンな準投資商品)の需要は堅調でしたが、価格上昇のため全体の需要量が影響を受けました。
韓国は今期、宝飾品需要が増加した数少ない国の一つです。国内の経済・政治情勢に混乱が生じたことで、安全な避難先としての金の需要が高まり、投資動機が増加を下支えする展開になりました。また、金地金の国内供給が逼迫したため、投資家は代替品として、シンプルな24金の宝飾品を購入するようになりました。
オーストラリア
金価格の記録的高騰を受けて、オーストラリアの需要は10%減少しました。価格環境が引き続き需要の主な影響要因ではあるものの、国内のインフレ圧力の緩和と、2月にオーストラリア準備銀行(RBA)が行った金利引き下げが、今後は消費者センチメントを支えることになるでしょう。