今後の見通し
30 April, 2025
- 近い将来のスタグフレーションリスクや、中期的景気後退リスク1、株と債券の相関性の高まり、米国財政赤字の急拡大予想2、さらには地政学的緊張の継続などから、投資は今後も勢いを増していくと見込まれています。
- 宝飾品は、成長率の低下と予想を超える高価格のため、予想を下回るでしょう。宝飾品リサイクルについては、放出可能な在庫が少ないことや、下取り、古い金製品の担保入れ、投げ売りの減少などで、増加の動きが抑制される可能性があります。
- テクノロジー分野では、世界経済の成長鈍化によって若干減速しますが、AI関連需要のおかげで健全な範囲内にとどまるでしょう。
- 地政学的リスクに対する懸念がある一方で、価格高騰に対する反応が予想されるため、金地金・金貨の購入は好調というより、むしろ底堅さを示すことになるでしょう。
- 中央銀行は、貿易関連リスクの継続的高まりと米国資産の不確実性プレミアムによって、再び過去3年間とほぼ同等の購入を実施することになるでしょう。
- 鉱山生産は2024年の記録的水準に近いレベルに達することが見込まれています。リサイクルは価格上昇に左右されることが
予想されますが、前述の要因によって抑制される可能性が十分あります。
投資
資産アロケーションの中心である株と債券の相関性は高い状態が続き、債券のヘッジ能力が損なわれる可能性が高くいと思われる。研究により、株と債券の相関性の主要因はインフレの絶対レベルではなく、インフレの変動性であることが判明しました3。西側諸国の多くにおいてインフレは落ち着きを見せつつあるようですが、目まぐるしく変化する関税問題のために、インフレ急騰の可能性に対する市場および政府関係者の警戒感は続いています4。特に、一般商品の在庫が減少し、関税の適用対象となる新規注文品が出回るようになれば、警戒感は一層高まることが予想されます。そのため、株と債券の相関性が高い状態が続き、金など相関性のない資産への投資メリットが高まる可能性があります。
この傾向は、金を裏付けとするETFだけでなく、OTC需要にも波及するものと思われます。先物需要が価格に対する抑制要因や促進要因として、断続的に作用することになるでしょう。第1四半期にネットロングエクスポージャーが減少し、第2四半期以降にポジションを追加できる余地が生じました。
金地金・金貨も、前四半期に予測したとおり、底堅さが続くでしょう。需要は時として価格に敏感になることがありますが、今後は、一部投資家にとって代替手段が存在しないことや、メディアの注目を集めるようになったこと、経済への懸念が高まっていることが、より重要な促進要因になるとワールド ゴールド カウンシルは考えています。
当然のことながら、金にとってのこのパーフェクトストームはリスクだけでなくチャンスにもなります。投資市場が飽和しているという証拠はほとんど見られませんが、リスク資産市場の落ち着きや地政学的争いの一時的沈静化、利益確定の動きによって、一部で逆流現象が引き起こされる可能性はあります。ただし、それによって全体としてのプラス傾向が損なわれることはないでしょう。
金価格の推移が好調だった点からすると、今期の宝飾品需要は予想よりも弱かったといえます。また、事後分析でも、価格、所得、通貨の動向を考慮すると、宝飾品は、ワールド ゴールド カウンシルのモデルによる予測よりも低調だったことが示されています。非常にリスクが高い環境において、一部地域では、金宝飾品の準投資的性質より、購入マージンが低く、一般に純度が高い、金の価値保全機能や魅力をより具現する金地金・金貨の方が好まれた可能性があります。テクノロジー分野は、AI関連需要の恩恵を受けることが見込まれてはいるものの、成長の鈍化と価格の高騰による圧力にさらされており、関税をめぐる状況が依然不透明であることが、テクノロジー需要の予測をますます難しくしています。
中央銀行
各国中央銀行の準備金の多様化は、米国資産の減少を伴って続いています。ただし、米国資産については2月に一時的な増加がありました5。この傾向については、地政学的緊張に大きな変化がない限り、その終わりを見通すことはできません。IMFは、政策の不確実性を理由に、米国の成長見通しを他の主要経済国よりも引き下げました。これは、他の国々が交渉で優位に立つ可能性もあることを示唆しています。ただし、交渉は数週間ではなく、数ヵ月から数年かかるものとなるでしょう。したがって、こうした事態が近い将来、解消されることはないでしょう。
購入ペースが低下する原因となり得るのは、金価格の高騰や世界貿易の縮小により準備金の増加が鈍化し、目標配分率(設定されている場合)がより早く達成される場合です。ワールド ゴールド カウンシルでは、このようなことはすぐには起こらず、過去3年間と同様、今年も買いが活発になる可能性が高いと予測しています。その代わり、中心予測の周辺に不確実性の幅を広く設定することで、減速の可能性を反映させています。
供給
前例のないキャッシュ創出によって、公表されている開発計画が前進し、鉱山生産量が堅調に維持されると予想しています6。ガーナ、チリ、カナダの生産パイプラインは順調に稼働しています。しかし、トルコとロシアの混乱、オーストラリアの生産削減は、一部の地域における鉱山生産が持つ潜在的不安定性を浮き彫りにしました。ヘッジ活動はごく限られた状態が続くと予想されます。
リサイクルは予想外の減少となり、これまでに比べて価格への反応が鈍くなっていることが明らかになりました。これにはいくつかの理由が考えられます。消費者が古い金を売らずに、新しい品を購入する際の下取りに出すことを好むこと、金宝飾品を担保にして、売却を回避したり延期したりするゴールドローンの増加、放出可能な在庫が少ないことなどです。また、経済的危機が深刻なものでなければ、消費者は将来、さらに高い価格で売却することを望むため、価格が非常に高騰した場合でも、リサイクルが減少することはあり得ます。