投資
30 April, 2025
- 今期の金投資は552トンまで急増し、ロシア・ウクライナ戦争が勃発した2022年第1四半期にほぼ匹敵する水準となりました。
- 今四半期は、貿易摩擦と金価格高騰によって流入が急激に増加し、世界の金ETFに対する四半期需要が過去3年間で最高となりました。
- 金地金・金貨投資も再び好調な四半期となり、特に、中国が大きく貢献しました。
トン | 2024年 第1四半期 |
2025年 第1四半期 |
前年同期比 | |
投資 | 204.4 | 551.9 | 170 | |
金地金・金貨 | 317.3 | 325.4 | 3 | |
インド | 43.6 | 46.7 | 7 | |
中国:本土 | 110.5 | 124.2 | 12 | |
金を裏付けとするETF | -113.0 | 226.5 | - |
金価格は過去最高値を繰り返し更新し、ここ数ヵ月は価格上昇がメディアの見出しを独占する状態になっています。この最近の上昇傾向は、1月に見られた投資フローの増加から始まりました。当初は米国の関税がきっかけでしたが、その後、不安定かつ予測不能な米国の政策発表への懸念、スタグフレーションや景気後退不確実な環境下での株式市場の混乱によって、その上昇傾向がさらに確固としたものになりました。
こうした環境において、金の分散投資の利点が明らかになり、一般の個人投資家から富裕層や機関投資家まであらゆる投資家が、安全な避難先への資産配分の重要性を認識するようになりました。力強い価格上昇そのものが、投資フローの勢いをさらに増進させました。
世界で、金を裏付けとするETFが広範に復調し、世界各国の投資家たちが運用残高を大幅に増やしました。金地金や金貨への投資意欲にも同様の動きが見られ、運用残高が減少した市場は限られていました。
伝聞によると、富裕層や機関投資家による投資フローは引き続きプラスでした。こうした動きは、ワールド ゴールド カウンシルのOTC取引および在庫フローに関する数値に反映されています。同時に、その数値には、その他の需要供給推計のバランスから生じた統計残差も含まれています。今期、このバランスはマイナスであり、一見すると直感に反しているように見えるかもしれません。これは、投資家の関心がOTCから金ETFへと移ったこと、国境を越えた金の現物輸送の影響、さらにはこれらの推計の一部が規模の大きさゆえに通常以上の不確実性を伴っていることなど、さまざまな要因によって説明できると考えています。COMEXでのポジションの変化も、このカテゴリーへの投資を反映するもので、資産運用機関の先物取引の買い越しポジションは今期、75トン減少しました1。同様のことが ― 投資家が期初めに買いポジションを取り、その後の金価格上昇で買いポジションの一部を解消する動き ー 他の地域でも起こった可能性があります。
表3:国別の合計金地金・金貨需要(トン)
2024年 第1四半期 |
2024年 第2四半期 |
2024年 第3四半期 |
2024年 第4四半期 |
2025年 第1四半期 |
前期比変化率 (%) |
前年同期比 | |
インド | 43.6 | 43.1 | 76.7 | 76.0 | 46.7 | -39 | 7 |
パキスタン | 4.8 | 4.5 | 4.1 | 5.6 | 5.0 | -10 | 5 |
スリランカ | - | - | - | - | - | - | - |
中華圏 | 113.5 | 82.2 | 63.9 | 86.2 | 126.7 | 47 | 12 |
中国:本土 | 110.5 | 80.0 | 62.1 | 83.6 | 124.2 | 48 | 12 |
香港特別行政区 | 0.5 | 0.4 | 0.3 | 0.4 | -0.4 | - | - |
台湾 | 2.5 | 1.8 | 1.4 | 2.2 | 2.9 | 31 | 16 |
日本 | -1.3 | 4.6 | 0.1 | -0.9 | 0.1 | - | - |
インドネシア | 6.6 | 4.5 | 7.6 | 5.8 | 8.9 | 52 | 35 |
マレーシア | 1.8 | 1.3 | 1.3 | 2.0 | 2.5 | 21 | 34 |
シンガポール | 1.8 | 1.6 | 1.2 | 1.9 | 2.5 | 29 | 35 |
韓国 | 5.1 | 4.1 | 4.2 | 5.9 | 7.0 | 18 | 36 |
タイ | 5.9 | 7.2 | 12.1 | 14.6 | 7.4 | -49 | 25 |
ベトナム | 14.1 | 11.8 | 7.9 | 8.2 | 12.0 | 46 | -15 |
オーストラリア | 2.2 | 3.1 | 2.5 | 3.6 | 3.1 | -14 | 44 |
中東 | 27.5 | 29.4 | 25.3 | 27.6 | 28.4 | 3 | 3 |
サウジアラビア | 3.8 | 3.9 | 3.3 | 4.3 | 4.4 | 4 | 15 |
UAE | 3.3 | 3.3 | 3.6 | 3.4 | 3.1 | -8 | -5 |
クウェート | 1.5 | 1.6 | 1.6 | 1.4 | 1.4 | -3 | -5 |
エジプト | 5.2 | 7.6 | 5.3 | 5.9 | 4.7 | -20 | -10 |
イラン | 11.5 | 10.9 | 9.5 | 10.4 | 12.7 | 22 | 10 |
その他の中東 | 2.2 | 2.1 | 2.0 | 2.2 | 2.1 | -8 | -5 |
トルコ | 45.3 | 30.8 | 12.7 | 23.5 | 20.2 | -14 | -55 |
ロシア連邦 | 7.4 | 8.9 | 9.1 | 9.0 | 7.6 | -16 | 3 |
米州 | 22.5 | 21.1 | 22.3 | 21.7 | 19.3 | -11 | -14 |
米国 | 20.1 | 18.9 | 19.9 | 18.6 | 15.7 | -16 | -22 |
カナダ | 1.6 | 1.7 | 1.8 | 2.4 | 3.0 | 22 | 85 |
メキシコ | 0.3 | 0.2 | 0.2 | 0.2 | 0.2 | 18 | -39 |
ブラジル | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 0.5 | 0.4 | -10 | -4 |
欧州(CISを除く) | 14.8 | 11.1 | 18.2 | 23.2 | 26.5 | 14 | 79 |
フランス | -1.2 | -0.6 | -0.3 | -0.5 | -1.2 | - | - |
ドイツ | 6.6 | -2.0 | 3.5 | 8.7 | 10.5 | 21 | 59 |
イタリア | - | - | - | - | - | - | - |
スペイン | - | - | - | - | - | - | - |
英国 | 2.0 | 2.6 | 3.5 | 2.2 | 3.4 | 59 | 72 |
スイス | 1.4 | 5.1 | 5.0 | 5.4 | 5.8 | 7 | 313 |
オーストリア | 0.2 | 0.5 | 0.6 | 1.1 | 0.6 | -44 | 231 |
その他の欧州 | 5.7 | 5.4 | 5.8 | 6.3 | 7.3 | 15 | 27 |
小計 | 315.5 | 269.4 | 269.0 | 313.9 | 323.6 | 3 | 3 |
その他・在庫変動 | 1.9 | 5.2 | 1.5 | 12.1 | 1.8 | -85 | -4 |
世界合計 | 317.3 | 274.6 | 270.5 | 326.0 | 325.4 | -0 | 3 |
出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル
今期、金市場が急激に変化したことで、供給と需要のさまざまな流れを把握するのが困難な環境が生まれ、将来一部のデータを修正する可能性が高くなりました。
ETF
今年、金ETFは好調なスタートを切り、今四半期の運用残高は226トン増加しました。その結果、総運用残高は3,445トンに達しました。これは2023年5月以来の高水準ですが、2020年11月に記録した過去最高の3,929トンには及びませんでした。
米ドル換算で210億ドルという需要は、2020年第2四半期に記録した240億ドルに次いで史上2番目に大きな四半期流入でした。その結果、金価格の上昇にも支えられ、運用資産残高(AUM)の総額は今期末までに過去最高の3,450億ドルに達しました。
過去12カ月のうち10カ月でプラスだった世界的ETF需要は、今期さらに増加しました。すでに金価格の上昇で勢いづいていた投資家たちは、米国の関税政策の突然の変更に驚き、安全資産を求めて金に殺到しました。
北米上場ファンドでは、株式市場の変動にスタグフレーションへの懸念が重なったことで金投資への関心がさらに高まり、今期最大の流入(+134トン)となりました。
ECBによる追加利下げが予想されていることで、欧州では金にとって好ましい環境が整備され、欧州地域の上場ファンドは今期、55トンの増加となりました。
今期、アジアの上場ファンドがとりわけ好調で、34トンの増加を記録しました。米国との貿易戦争の脅威が中国国内で強まっていることから、これらの需要の多くは中国の上場ファンドによるものです。インドも大きく成長しました。今期の運用残高は11%の増加となりました。
その他の地域の上場ファンドの増加は4トンと比較的穏やかでしたが、オーストラリアでは約3トンと最大級の増加を記録しました。
第2四半期最初の数週間に、世界中で金ETFの需要が増大し、特にアジアでは、フローがすでに第1四半期の合計を上回っています。4月も、現在のペースで需要が続けば、2020年に新型コロナウイルス感染症によって投資家が金に殺到して以来、3ヵ月連続としては最大の流入となる可能性があります。特に、総運用残高が当時の過去最高をいまだに約10%下回っていることを考えるとなおさらです。
金を裏付けとするETFの地域別フローの詳細なレビューは、ETFフローに関するコメンタリーをご覧ください。
金地金・金貨
今四半期、小売レベルでの金投資需要は前年同期比で3%増の健全な伸びを示しました。金地金・金貨の需要は325トンで、前四半期とは同水準で、5年平均に比べ15%の増加でした。
投資増加の主な原動力となったのが、目を見張るような金価格の上昇でした。上昇機運に勢いがあるため、今期金価格は過去最高値を20回更新し、世界中のメディアの注目を集め、投資家たちが将来の価格予想を引き上げる契機となりました。それは、さらなる上昇を見込む投資家の新規購入を促し、また利益確定売りを急がず、さらなる高値を待つ投資家による売却を抑えるという二重の効果をもたらしました。
今期、米ドルが総じて弱かったことで、他の通貨建ての金価格上昇が多少抑制されましたが、総体的には金価格の強さは依然として目を見張るものがあります。
中国
今期、中国の金地金・金貨の需要は124トンに急増し、前年同期比12%増、前四半期比48%増となり、過去2番目に好調な四半期となりました。前年同期比の伸び率が、好調だった2024年第1四半期を比較対象としていたことを考えると、この業績は特に素晴らしいといえるでしょう。数量ベースでは、中国は世界全体の前年同期比の伸びに対し圧倒的に大きな貢献をしており、今四半期の金地金・金貨投資総額の38%を占めました。
金価格の記録的な高騰が、今四半期の金地金・金貨需要を押し上げた重要要因でした。株や債券などの国内資産のパフォーマンスが低迷する中、投資家はリターンを求めて金に殺到しました。
一方、米国と中国との貿易摩擦の激化や通貨安の予測も、安全な避難先としての金の需要を押し上げ、中国人民銀行による金購入継続の発表もさらなる後押しとなりました。
貿易摩擦や、経済成長への懸念、利下げへの期待が引き続き、金の魅力を高める方向に働き、第2四半期も金への投資需要は堅調に推移することが予想されます。
インド
インドの金地金・金貨需要は7四半期連続で前年同期比が増加し、7%増の47トンとなりました。これは、非常に好調だった過去2四半期と比較すると大きな減少ですが、第1四半期は、主に婚礼や祝祭によって購入が増加する第4四半期と比較することになるため、減少するのが常態です。
投資意欲の高まりは、現地通貨建て価格が10グラムあたり10万ルピーという重要な心理的なレベルに近づいていることが主な要因であり、さらに今四半期中に開催された多数の祝祭によって促された結果です。
健全なマクロ環境にもかかわらず、国内株式市場が下落したことで、資金の一部が金に流入する結果を招いた可能性があります。
インドの金に対する投資センチメントは依然良好です。今期の旺盛な金地金・金貨需要と金ETFへの流入、さらにはインド国民の保有金売却をためらう傾向が、引き続き健全な投資需要の存在を差し示しています。特に、世界的な地政学的不確実性があり、また他の国内資産のパフォーマンスが期待外れであるという環境において、金価格に対しては、依然楽観的見方が続いています。一方、モンスーンが平年並みであるという予報は、今年後半の農村部の投資需要にとって良い兆候であるといえるでしょう。
中東とトルコ
トルコの今期の投資需要は20トンで、非常に好調だった2024年第1四半期から大幅に減少し、前四半期も下回りました。今期、金利は緩和されたものの依然として高水準にあり、その結果、投資資金が貯蓄口座へと流れ、金から流出しました。
中東地域における投資需要は依然として堅調で、過去3年間の平均を若干上回っています。
成長はサウジアラビア(価格上昇への期待が誘因)とイラン(通貨安、高インフレ、予測不能な米国外交政策への懸念が誘因)に集中しました。この2ヵ国の増加は、価格上昇によって取引量が落ち込んだUAEや、経済と通貨の相対的な安定性のために資産避難先としての流入が減少したエジプトでの減少を上回りました。
欧米
米国における今期の金地金・金貨投資は、利益確定の動きが続いたため、ほぼ5年ぶりの低水準に落ち込みました。金額ベースでは、今四半期の投資は前年同期から増加して15億ドルに達しましたが、過去3年間の平均である16億ドルは下回りました。歴史的観点から見れば、共和党大統領の時には、一般的に小売需要が低下することから、驚くにはあたりません。しかし、現地調査では、関税の発表がメディアの見出しを飾ったことで投資意欲が今四半期期後半になって高まり、第2四半期初めまで続いたことがわかりました。一方、対照的なのが、主にOTC投資を利用する富裕層投資家の需要が依然堅調である点です。
欧州の金投資は、非常に低い水準からではありますが、前年同期から力強い回復を見せました。ドイツ語圏市場の成長により、需要は26トンに急増しました。金価格の目覚ましい上昇のため、価格予想が上方修正され、利益確定の動きが抑制される一方で新規投資家の参入が促されました。このような高価格環境において、匿名現金取引への規制(例えばドイツでは2,000ユーロを超える現金取引には身分証明書が必要)を考慮すると、小額投資用商品(1グラム~20グラム)に対する需要が最も大きな成長を見せました。
昨年度の予算でCGTの閾値が変更されたため、英国における投資は、CGTの対象となる金の需要が増加したことで押し上げられました。
ASEAN市場
本レポートで取り上げるASEAN市場の需要は、総じて前年同期比で増加しました。ベトナムは例外で、金商品が入手しにくい状況のため、プレミアムが上昇しました。また通貨の下落によって、米ドル建て金価格がさらに上昇し、金の購入が一段と困難になりました。
インドネシアでは、インフレや通貨安、地政学的リスクに対する安全な避難先としての需要から、需要が前年同期比で改善しました。タイの場合、金価格の上昇が利益確定売りを促し、需要が前四半期から半減したものの、前向きな価格期待が投資を支えました。
その他アジア諸国
今四半期、日本では利益確定売りと新規投資がほぼ同じレベルで推移しました。従来、日本の投資家は価格上昇から利益を得る傾向があるにもかかわらず、前例のない価格水準でも需要が減少しなかったことは注目に値します。近年、若年層による金への関心が続く中、現地調査では、今四半期に年配の投資家も金価格の上昇局面に参入していたことがわかりました。
韓国では国内政治や経済に安定性を欠くことから、安全な避難先としての需要が高まり、投資が急増して、ワールド ゴールド カウンシルのデータシリーズ中で2番目に高い水準に達しました。供給上の制約もあったため、現地金価格の高騰をもたらした。
オーストラリア
金価格の上昇とオーストラリア準備銀行による2月の金利引き下げを受けて、金地金・金貨投資が急増しました。株式市場が低迷する中、安全な避難先としての需要が高まったことがさらに投資を押し上げる結果になりました2。