テクノロジー

31 January, 2024

第4四半期の回復が堅調であったことで、需要は過去7四半期で最高の81トンとなりました。しかし2023年は全体としては低調であり、年間需要は初めて300トンを下回りました。

  • 第4四半期のテクノロジー分野の金需要は前年同期比12%増の81トンとなりました。エレクトロニクス製品分野が(前年同期比で14%増の)66トンに回復したことがけん引役となりました。
  • 年間の需要は4%減の298トンで、ワールド ゴールド カウンシルのデータシリーズ中で最低の年間合計でした。
  • 家電関連需要は1年間を通して苦戦を強いられましたが、最近の回復傾向が2024年も続くという楽観的な見通しが出てきています。
トン 2022 2023   前年同期比変化率(%)
テクノロジー 308.7 297.8 -4
エレクトロニクス 252.0 241.3 -4
その他工業用 46.5 47.1 1
歯科用途 10.3 9.5 -8

出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

産業用途に使用される金は、第4四半期に前年同期比12%増となり、それまでの3四半期に見られた前年同期比の減少からの反転を果たしました。その結果、この分野の年間総需要は298トンとなり、前年同期比で4%のマイナスとなりました。

産業用金需要の主要カテゴリーであるエレクトロニクス製品分野は、厳しい経済状況下で、1年を通して低迷を続けました。そのことは、大手半導体メーカーの業績にも表れています。たとえば、サムスンは第4四半期の営業利益が35%の減少になると予想しており1 、世界最大の半導体メーカーであるTSMC(台湾積体電路製造)も今期営業利益は23%の減少になると見込んでいます2  

2023年、家電製品分野の金需要はとりわけ不調でした。たとえば、2023年のスマートフォン出荷台数は前年同期比で約3%減の11億7,000万台で、年間の出荷台数としては過去10年間で最低となりました3。ただし、この分野は下半期にある程度回復したと考えられ、消費者需要が回復し、第1四半期に高かった在庫レベルは下がり、第4四半期には在庫の補充が必要になりました。2024年にはさらに回復するという楽観的な見方も出てきています4

エレクトロニクス製品

第4四半期にエレクトロニクス製品分野で使用された金は、前年同期比で14%増の66トンでした。間違いなく2023年で最良の四半期でしたが、製品分野の需要が伝統的に強いこの時期としては著しく低調だった2022年第4四半期が比較対象であることによるベース効果があります。

ワイヤレス機器分野は、第4四半期の需要を回復させた主な原動力でした。工場稼働率の改善が報告され、2022年第4四半期に20~30%だったものが2023年第4四半期には60~70%にまで上昇しました。これは、今期中に新しいデバイスが発売されたことによるスマートフォン需要によって牽引されたもので、特に低価格帯から中価格帯のモデルに対する需要が好調でした。たとえばファーウェイは、同社のMate 60 Proモデルに対する中国国内の需要は旺盛であると公表しています5。5Gスマートフォンの人気は世界中で高まり続けており、普及率は2022年の48%から2023年には59%へと増加し、2024年も同程度の増加率が見込まれています。今後有望なのは、最近発売され、ワイヤレス接続の速度と安定性を大幅に高めることが期待されているWi-Fi 7と6、一部のメーカーが、2027年までに7,500個から12,500個に増加すると予想している低軌道衛星(LEOS)7 に関わる需要の増加です 。いずれの用途も信頼性の高いハイエンドのワイヤレスインフラストラクチャを必要とするため、金が重要な材料となります。

第4四半期、発光ダイオード(LED)分野は引き続き問題に悩まされました。これまでの数四半期における傾向が続いた照明需要は低調なままで、2024年第2四半期までに回復する見込みは立っていません。

バックライト用途では出荷量がわずかに増加し、若干の良化が見られました。最先端3Dセンサーの需要は、ここ数四半期におけるLED分野のプラス要因でしたが、家電製品需要の継続的低迷の影響を受け、予想を下回りました。ミニLEDやマイクロLEDなどの(通常、従来のLEDよりも必要な金の量が少なかったり、金をまったく必要としなかったりする)新技術は、さまざまな用途に浸透し始めていますが、生産上の問題やコスト増によって、普及は当初の予想より遅れています。

メモリ分野の金需要は第4四半期に回復しました。DRAMメーカーは過剰な在庫増を避けるため、稼働率と生産量を制御する戦略を続けています。たとえばマイクロンは第4四半期に、在庫を標準である8週分に減らし、半導体の生産量を14%増加させたといわれています。需要を支えたのは、第4四半期中の新型スマートフォンの発売や、AIおよびクラウドコンピューティング用途の堅調な需要でした。実際、PCやスマートフォン市場のサプライチェーンは健全なレベルに戻っていると伝えられており、そうしたことのすべてが2024年に向けての良い前兆となっています。

プリント基板(PCB)に使用される金は、この分野の伝統的な閑散期において、前年同期比マイナスとなりました。自動車産業およびモバイル産業の需要、さらにメモリモジュールの需要はいずれも四半期としては増加したものの、2022年第4四半期のレベルには届きませんでした。ただし、AIサーバーやLEO衛星用途など比較的堅調な分野もあり、今後数四半期である程度の拡大が見られる可能性はあります。メーカーがタイなどの東南アジアや韓国の施設に大規模な投資を行うことから、この分野では、2024年は変化の年となることが予想されています8。そのことが金需要に直接影響する可能性は低いものの、世界の大手PCBメーカーの多くにとっては物流上の大きな変化となることでしょう。

 

図10:第4四半期の回復にもかかわらず300トンを下回ったテクノロジー需要* 

第4四半期の回復にもかかわらず300トンを下回ったテクノロジー需要*

テクノロジー用の金の分野別年間使用量、トン
第4四半期の回復にもかかわらず300トンを下回ったテクノロジー需要*
テクノロジー用の金の分野別年間使用量、トン
*データは 2023 年 12 月 31 日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、リフィニティブ GFMS、ワールド ゴールド カウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, リフィニティブGFMS, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは 2023 年 12 月 31 日現在。

エレクトロニクス業界にとっては困難な年であったにもかかわらず、2023年はいくつかの明るい成果を残して幕を閉じました。世界半導体市場統計(WSTS)の最新統計では、半導体産業は2023年に約10%縮小すると予想する一方で、メモリ分野の回復に伴い、2024年には最大13%というかなり急速な回復を見込んでいます9

総計レベルでは、世界の主要エレクトロニクス製品製造の4大拠点すべてで、第4四半期の金需要が増加しました(ただし、2022年第4四半期の数字が著しく低かったことによるベース効果があります)。中国および香港特別行政区 - 17.5トン(48%)、韓国 - 6.4トン(3.8%)、日本 - 18.6トン(9.4%)、米国 - 17.4トン(7.2%)。

その他産業用途と歯科用途

第4四半期のその他産業用途および装飾品の需要は、主に中国の回復が続いていることにより、前年同期比で5%増加しました。しかし、アクセサリー分野で各種メッキ製品への移行が起きたことから、イタリアでの需要は減少しました。インドでは、金価格の高騰がギフト需要に影響したことでメッキ需要が抑えられ、第4四半期は横ばいとなりました。歯科用途需要は3%のマイナスでしたが、以前より減少率は低下しており、パラジウム価格が下がったことで特殊歯科用合金の需要が高まった日本の回復が主な要因となっています。

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