宝飾品

31 January, 2024

記録的な金価格にもかかわらず堅調な宝飾品需要

  • 世界の年間金宝飾品消費量は2023年もほとんど変化しませんでした。実際、金価格が高値記録を更新したにもかかわらず、前年同期比はわずかに上昇しただけです 1
  • 需要が比較的低調だった2022年から回復した中国が成長の主な原動力となりましたが、他にも成長した地域がありました。なかでもトルコの成長は目覚ましいものがありました。
  • インドの需要は金価格高騰の影響を受け、前年同期に比べてトン数が大きく減少しました。
トン 2022 2023   前年同期比変化率(%)
世界合計 2,088.9 2,092.6 0
インド 600.6 562.3 -6
中国本土 570.8 630.2 10

出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

(米ドルやその他多くの通貨で)金価格が記録的高値に達した2023年、世界の金宝飾品需要は2,089トンから2,093トンへと微増となりました。ただし、金額ベースでは8%増加の1,310億米ドルという記録的数字を達成しました。

 

図3:宝飾品需要は金価格高騰の下で底堅さを証明*

図3:宝飾品需要は金価格高騰の下で底堅さを証明*

金宝飾品の年間需要、トン

図3:宝飾品需要は金価格高騰の下で底堅さを証明*
金宝飾品の年間需要、トン
*データは2023年12月31日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ワールド ゴールド カウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, リフィニティブGFMS, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは 2023 年 12 月 31 日現在。

新型コロナウイルスの影響で低迷した2022年との比較ではありますが、成長に大きく貢献したのは中国でした。また、トルコとその他1、2の小規模な市場も、しばしば高カラット宝飾品購入のけん引役となる投資動機に助けられ、前年同期比でプラスとなりました。それ以外では、金価格上昇の度合いを考慮すると減少規模は総じて大きくはないものの、多くの国や地域が低調でした。

中国

第4四半期、中国の金宝飾品消費量は148トンに達し(前年同期比17%増)、年間合計は630トン(前年比10%増)まで増加しました。第4四半期のパフォーマンスが中国の過去5年間の四半期平均とほぼ同程度であるのに前年同期比が大幅に上昇した理由が、きわめて低調だった2022年第4四半期との比較によるベース効果であることから、期待外れだったと言えるかもしれません。

2022年後半に、新型コロナウイルス感染症による規制が解除されたことが、2023年に中国の金宝飾品消費が回復する足掛かりとなりました。価値の保全を望む消費者にとっての魅力が高まったことも、金に対する追風となりました。中国人民銀行(人民銀)の調査によると、2023年に中国の家計に占める貯蓄性向は過去最高レベルで推移し、長年にわたる価値の保全手段という金のステータスを高める結果になりました。

2023年に金価格が高騰したことがそうした風潮に拍車を掛け、金宝飾品は通年で最も好調な小売カテゴリーの1つとなりました。
新型コロナウイルスパンデミックに伴う規制が解除され、婚姻件数が回復するとともに、2023年の婚礼用宝飾品の需要が回復したこともさらなる追風となりました。

しかし、2023年の合計は依然長期平均を下回り、コロナ前の2019年の水準に比べると1%低い結果になりました。また、通常第4四半期は金宝飾品の売上が好調な時期なのですが、業界によればやや期待外れの結果に終わりました。金価格の上昇と、旅行やその他の娯楽へと消費者の支出対象が移ったことから、第4四半期はやや低調に終始しました。また、2024年の春節が例年より遅いことで、この行事に関連した伝統的な売上の増加が後ろにずれることになりました 2

2023年は金価格の高騰もあって、軽くて単価が低い商品に人気が集まりました。ワールド ゴールド カウンシルの2023 Chinese jewellery retail market insightsでは、10g以下の軽い品や、2,000人民元より安い品が小売売上に最も貢献したことが確認されています。また、業界関係者との会話でも同様の傾向が見られ、軽い24K硬質純金宝飾品や(人件費が安い)小型商品が他の商品よりも売行きが順調です。

その一方、「卸売業者から消費者へ」という販売モデルの台頭も確認されています。消費者が卸売業者から金宝飾品を直接購入することで、追加費用の発生を回避し、魅力的な価格というメリットを受けることができます。

今後を展望すると、2024年に中国の金宝飾品需要はいくつかのチャレンジに直面する可能性があります。第1四半期は、伝統的な春節の売上増のおかげで堅調な業績が見込まれますが、金価格の高騰と経済成長の減速懸念が、春節による売上増の後、金宝飾品の需要に対する圧力となるおそれがあります。さらに、2024年は婚礼に関してはあまり縁起の良い年ではなく、悪影響をもたらすかもしれません。ワールド ゴールド カウンシルでは、高価格がもたらす価値保全機能が後押しとなって、消費者は今後も工賃の安い金宝飾品を求め続けると考えています。

 

図4:2023年首位の座を争ったインドと中国* 

2023年首位の座を争ったインドと中国*

上位5ヵ国の年間金宝飾品需要、トン

2023年首位の座を争ったインドと中国*
上位5ヵ国の年間金宝飾品需要、トン
*データは2023年12月31日現在。 出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

出所: メタルズ・フォーカス, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは 2023 年 12 月 31 日現在。

インド

インドの第4四半期需要は、比較的好調だった2022年第4四半期によるベース効果で9%減少しました。このことが、2023年通年の需要減少に結び付き、前年比6%減の562トンという結果をもたらしました。議論の余地はあるかもしれませんが、現地の金価格の動向を考慮すると、前年比6%のマイナスは妥当であったと見なすこともできるでしょう。金価格は2023年に過去最高を何度も更新しました。

2023年に価格が上昇したことによって、重量の軽い商品や低カラットの商品が好まれる傾向が強まり、また、単純に金宝飾品の購入量が減少することになりました。宝石をあしらった商品や18K宝飾品にかけられるマージンが高いことも、この変化をさらに加速させました。

第4四半期の間、ナブラトリと重なった10月の価格修正が消費者の間に強い反応を引き起こしました3 。また、ディワリのための購入が11月の売上を押し上げました。しかし、価格が再び急上昇したため、12月にはディワリ需要も勢いを失い、年末にかけての数週間は需要がほぼなくなったとする報告がありました。

現在の価格水準が続いた場合、インドの金宝飾品需要は2024年第1四半期には落ち込む可能性が高く、小売業者は価格修正がなければ大幅な需要の回復は見込めないと悲観的です。さらに、第1四半期に婚礼に適した縁起の良い日が少ないこと(2023年第1四半期が28日間であったのに対して2024年は16日間)を考慮すると、婚礼用宝飾品の需要は減少する可能性が高くなります。一般に政府支出が増加する傾向のある総選挙(4月~5月)が近づくにつれて需要が増加する可能性はありますが、見通しは比較的慎重になってきています。

中東とトルコ

トルコの宝飾品需要は、2020年の低水準からの増加傾向が続き、年間需要は42トン(前年同期比14%増)となり、8年ぶりの高水準となりました。第4四半期の11トンという需要は前年同期比で7%の増加であり、7四半期連続で前年同期比がプラスとなりました。

トルコの宝飾品需要においては依然、投資動機が重要な推進役を果たしているものの、第4四半期に金価格が過去最高を更新したことが宝飾品需要にとっては逆風となり、第3四半期より低下しました。

そうした状況にもかかわらず、金には投資対象として相変わらず抗しがたい魅力があります。またインフレ上昇率は異常に高く、国内投資家には対応する投資選択肢がありません。さらに、地政学的緊張が高まり、金が持つ安全な避難先としての特性に注目が集まりました。

2023年、中東の年間宝飾品消費量は9%減少して、171トンとなりました。サウジアラビアの実績は他の中東諸国を上回り、前年同期に比べて微増の38トン(前年同期比1%増)を記録しました。しかしながら、新型コロナウイルスパンデミックで抑えつけられていた需要がコロナ後に一巡し、金価格の高騰が足かせとなったこともあり、需要は比較的低調なままでした。

その他の地域でロスが非常に大きかったのがUAE(-15%)とエジプト(-17%)でした。UAEの落ち込みの主な要因は、コロナ後に観光業が回復した2022年が比較対象であったことによるベース効果です。エジプトは引き続き国内経済に問題を抱えており、特に現地通貨の下落は国内の消費者に影響を及ぼしました。地政学的な緊張と観光業の低迷も悪影響をもたらしました。

米国と欧州

米国の宝飾品の年間消費量は、比較的堅調な需要が継続した後、減少傾向が続いています。年間の需要は5%減の136トンで、第4四半期の需要は4%減少し、7四半期連続で前年同期を下回りました。

2021年から2022年にかけては、新型コロナウイルス感染症によるロックダウンや政府の支援策により可処分所得の水準が高まったことで需要が押し上げられましたが、その効果も2023年には消滅しました。代わって、消費者は旅行や娯楽、体験型観光へと支出を振り向けるようになりました。金価格の上昇のほか、コロナ後、結婚式が挙行可能となりそれまで抑えられて需要が解消したことで、婚姻件数が「正常」に戻ったことが、需要水準の低下に影響しました。

とはいえ、年間需要は依然として新型コロナウイルス感染症以前のレベル(2015年から2019年の平均は124トン)を優に超えています。

2023年、欧州全域にわたって宝飾品需要は低迷しました。地域レベルでの需要は3%減の70トンでした。第4四半期には従来の季節的要因による前四半期比の上昇が見られましたが、前年同期比の方は堅調とはいえず、5%減の30トンでした。米国同様、消費の落ち込みは、ポストコロナの需要の「正常化」を一部反映しています。市場のトップエンドの需要は引き続き堅調さを維持していますが、現地視察で聞いた話では、このセグメントの強さは以前ほど広範囲には及んでいないとのことです。

アセアン市場

タイの金宝飾品需要は第4四半期に回復しましたが、通年の減少を止めることはできませんでした。価格の下落により10月と11月に需要が急増したにもかかわらず、年間需要は2%減の9トンでした。

伝えられるところによると、第4四半期に農産物価格が上昇したことで、1年の大半を通して需要実績で都市部に後れを取ってきた地方・農村部で需要が改善しました。しかしタイでは、2023年に金価格の上昇によって、それまで保有されていた宝飾品が売られたため、宝飾品のリサイクル量が増加しました。

ベトナムの宝飾品需要は2023年に大幅に落ち込み、16%減の15トンとなりました。4四半期連続の前年同期比の減少は、経済成長の鈍化と比較的高いインフレがその原因です。

インドネシアの金宝飾品需要は2023年に12%減少し、2年続いた回復にピリオドが打たれました。金価格の高騰と広範囲に及ぶインフレ環境からの圧力が需要減の主な理由です。

その他アジア諸国

日本は2023年に、他より力強い回復を示した宝飾品市場の1つであり、需要は前年同期比で6%増の16トンに達しました。需要は年間を通じて好調さを一貫して維持し、各四半期で前年同期比の増加が見られました。主な成長分野は、金価格上昇の恩恵を受けた準投資セグメントである「喜平」商品でした5 。対照的に、軽くて低カラットの「日常用」デザインの商品は、価格上昇の結果、苦戦しました。

韓国の金宝飾品の消費は再び長期的減少傾向に戻り、年間需要は21%減の12トンとなりました。第4四半期のピークシーズンの購入のおかげで、第3四半期の低水準から前四半期比で健全な回復を見せましたが、現地金価格が記録的高値にあることで必然的に需要が押し下げられ、依然として長期下落傾向が続いています。

オーストラリア

2023年、オーストラリアの年間宝飾品需要は6%減少しました。消費者は生活費の高騰という厳しい圧力を受けており、それが金価格の上昇と相まって、金宝飾品の需要を前年同期比で減少させる結果となりました。ただし、需要は2021年の合計を優に上回っています。  

脚注

  1. 米ドル建てのLBMA金価格午後決め値は、絶対値でも年平均値でも過去最高となった。米ドル以外の複数の通貨による金価格も過去最高値を記録した。

  2. 多くの場合、中国の旧正月「春節」は1月下旬に祝われるが、2024年の春節は2月の第2週になる。

  3. ナブラトリは、女神ドゥルガーを祀るヒンズー教の祭祀であり、9日間続く。

  4. 「喜平」チェーンはプレーンでシンプルな金のチェーンで、独創的なデザインの金宝飾品に比べてマークアップが小さいため、投資として購入されることが多い。

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