テクノロジー

31 January, 2023

第4四半期の世界的な経済状況の悪化に加えて、貿易制限やサプライチェーンの課題が響き、 2022年のテクノロジーセクターの金需要は急減しました

  • 第 3 四半期が低調だったところに第 4 四半期も大幅減となったために、テクノロジーセクターの年間金需要は 7%減少しました。
  • セクター全体が 7%減少したのと同様にエレクトロニクス分野も振るわず、世界の経済状況の悪化と中国を中心とするサプライチェーンの課題を受けて、第 4 四半期に需要が急激に落ち込みました。
  • その他産業用途の金需要は年間を通して横ばいでした。
トン 2021 2022   前年同期比
テクノロジー 330.2 308.5 -7
エレクトロニクス 272.1 251.7 -7
その他産業用途 46.8 46.6 0
歯科用途 11.4 10.3 -9

出所:メタルズ・フォーカス、ワールド ゴールド カウンシル

2022 年の始まりは、企業、サプライチェーン、消費者のパンデミックからの回復が続き、2021 年と同じようなパターンをたどりました。金需要もそれに追随する形で、第 2 四半期までは安定して推移しました。しかし第 3 四半期と第 4 四半期は、世界経済の急激な変化を受けて流れが一気に変わりました。インフレ率の急上昇を抑えるために、各国の中央銀行が金利を急ピッチで引き上げたことが、世界中の消費者と企業の資金繰りに打撃を与えたのです。

第 4 四半期を通して、エレクトロニクス製品のサプライチェーンは引き続きパンデミックがもたらした不確実性に悩まされましたが、中国で新型コロナウイルス感染症関連の規制が突然緩和されて感染者が急増し、多くのセクターが労働者不足に陥るといった出来事が追い打ちをかけました。1 このことにより、中国の半導体メーカーが直面する他の課題、特に、半導体製造と知的財産に関する米国の対中制裁の影響がさらに深刻化しました。2

第 4 四半期にエレクトロニクス分野で使用された金は、前年同期比 18% 減の 58 トンでした。前年同期比の減少幅は 2009 年以降で最大となりました。これは業界が抱える過去にない様々な課題が直接作用した結果です。関連する課題の 1 つがスマートフォンの出荷台数です。最近のレポートによると、出荷台数は第 4 四半期が前年同期比 17%、通年では 11%減少したもようです。3

発光ダイオード(LED)分野の金の需要も減少しました。とりわけ大きな打撃を受けたのがバックライト需要です。消費者需要の減退に加えて、スマートフォンメーカーが販売不振による過剰在庫を抑えるために発注量を削減したことが響きました。パソコン出荷台数は第 4 四半期に 28%減少しました。これは 30 年ぶりの大幅な減少です。15 報告によると、こうした要素が重なって設備稼働率が 70%を下回り、過去 10 年の最低水準まで落ち込みました。米国の輸入規制や不動産セクターの減速が高級家電の需要を損なったことを背景に、ハイエンド LED(ウォッチやスマートフォンに搭載される皮膚センサーや心拍数トラッキング機能を含む、ヘルスケア用の UV-LED や IR-LED など)の需要も減少しました。LED の金需要で比較的順調だった唯一の分野が自動車セクターですが、報告によれば、業界でミニ LED(金のボンディングワイヤを必要としない)がより広く認められるようになり、新型車で徐々に普及が進む見通しです。

ワイヤレス機器分野の金需要も第 4 四半期に大幅に減少しました。スマートフォン需要の低調さとファーウェイに対する米国の制裁によって、デバイス生産者にはパワーアンプの在庫が大量に積み上がり、それに伴って発注量の削減を余儀なくされました。4 このことが、ウィン・セミコンダクターズや台湾積体電路製造(TSMC)をはじめとする大手半導体メーカーの設備稼働率の低下につながったと報告されています。その他の応用分野、たとえば低軌道衛星(LEOS)5 や光検出と測距(LIDAR)6 などは、それほど深刻な影響を受けませんでした。しかし、これらの用途はワイヤレス需要のごく一部に過ぎないため、この相対的な力強さは家電製品セグメントの落ち込みを相殺するには至りませんでした。とはいえ、2023 年半ばにかけてパワーアンプの在庫調整が完了する見込みであり、長期的には様々な用途でハイエンドワイヤレスチップのニーズが需要の回復を促進することはほぼ間違いないでしょう。

メモリ分野の金需要は第 4 四半期にさらに減少しました。前述のようにパソコンとスマートフォンの出荷台数の低迷がメモリ分野の重しとなり、多くのデバイス生産者が在庫削減に注力するようになりました。

仮想通貨マイニングの持続的な減少が、第 4 四半期に暗号通貨市場を襲った危機によって加速し、引き続き高級グラフィックスカードの需要を圧迫しています。マイクロンや SK ハイニックスなど、メモリチップの大手メーカーが生産量を減らし、新技術の導入も遅らせました。そして米国の制裁の結果、YMTC など一部のメモリチップメーカーが市場からの完全撤退を迫られる可能性さえ噂されています。7

最後に、プリント回路基板(PCB)に使用される金は、中国で大幅に減少したものの、その他の地域ではわずかに増加しました。中国は世界有数の PCB 製造能力を持つ(約 45%)ため、特に家電製品の需要が落ち込んでいる間は、同国が抱える課題が市場全体に打撃を与えることは避けられません。しかし設備稼働率は依然として高く、全体的な需給バランスは維持されています。さらに、自動車、航空宇宙、高速コンピューティングの分野における新しい用途が需要の支えとなり、2023 年下半期に回復を促すものと思われます。

要するに、エレクトロニクス分野は前途多難だということです。世界半導体市場統計(WSTS)は 11 月に予測を修正し、世界の半導体業界が 2022 年に劇的に減速する見込みで、2023 年には「インフレ率の上昇と、末端市場、特に消費者支出の影響を受ける市場での需要の減少」によって市場が 4.1%縮小すると予想しました。8 また、消費者心理の弱さやサプライチェーンの課題を踏まえて、アナリストらはアップルを含む多くのメーカーの出荷予測も下方修正しています。9

世界の主要エレクトロニクス製品加工拠点 4 カ所のうち 3 カ所が、総体として第4四半期の金需要の大幅な減少を報告しました。中国本土および香港特別行政区、韓国、日本が、それぞれ 12 トン(39%減)、6 トン(22%減)、17 トン(19%減)を記録しました。米国の需要はこの流れに逆行し、4%増の 16 トンとなりました。国内の生産能力が拡大したことと、2022 年を通してサプライチェーンがパンデミックの混乱を逃れたことが寄与しました。

その他産業用途と歯科用途

その他の産業用途の第 4 四半期の需要は前年同期比 5%減の 12 トンでしたが、これはほぼ全面的に、中国で続く混乱が原因です。イタリアでは小幅な増加が報告されましたが、その後、ブランドが慎重さを増したために増加が止まりました。年間需要は 47 トンで横ばいでした。

第 4 四半期の歯科需要は、すべての主要市場で構造的な減少が進んだことを背景に、前年同期比 11%減の 2 トンとなり、四半期の最低記録をまた更新しました。年間需要は 9%減の 10 トンでした。

 

 

 

脚注

  1. 16    LEO 衛星は、地表面に比較的近い周回軌道を飛行し、遠隔地にインターネットサービスを提供することができる。LEO 衛星には、信頼性の高いハイエンドワイヤレスインフラが必要である。www.weforum.org/agenda/2022/02/explainer-how-low-earth-orbitsatellite-technology-can-connect-the-unconnected/

  2. LIDAR センサーは、レーザー光が物体で反射して、光源に戻ってくることを利用して、光パルスの移動(飛行)時間を計って距離を測定する。この技術はハイエンドのスマートフォン用アプリケーションでの使用がますます広がっており、また自動運転車の開発に不可欠となるだろう。