Ray Jia


Marissa Salim

日本の投資家にとっての金のポテンシャルとは?

物価の上昇と厳しい成長見通しを背景に、日本の個人投資家は今、ポートフォリオの見直しに取り組んでいます。ここ数年、金価格が高値更新を続けるなかで、インフレが進行する現在の日本において、金投資の重要性はますます高まっています。それにも関わらず、日本の投資家のポートフォリオにおいて金の存在は依然として小さく、フィナンシャルアドバイザーや機関投資家、金融商品提供業者には次のような疑問が生じています。

‐日本の投資家にとって、金投資の障壁とは何でしょうか?

‐どのようにすれば、投資家のポートフォリオにおける金のシェアを拡大できるのでしょうか?

本レポートでは、重大な転換期におけるこうしたダイナミズムについて詳しく検証します。インフレ圧力が高まるなか、日銀が超低金利政策からの脱却という細心の注意を要するかじ取りを進める環境にあって、資産価値の保全手段としての金の伝統的役割が改めて重要性を帯びてきています。金の戦略的役割は、株式と債券に大きく依存している投資家のポートフォリオの可能性を解き放つことができるでしょうか?本レポートでは、日本の投資家の金の投資動向やその動機、また投資態度や投資に際しての障壁を分析するとともに、投資家にさらなる金投資の機会をもたらすことに繋がる実行可能な洞察(インサイト)を提供します。

日本のマクロ環境の概観

日本経済は、今年(2025年)初めに縮小した後、第2四半期に入って回復しました(図1)。前四半期比0.5%の増加は主に、米国の関税が発効する前の駆け込み輸出に支えられたものです1。一方、賃金の上昇のおかげで、物価が上昇する中でも個人消費は一段と増加しました。

しかし、将来の成長については予断を許しません。円高が続き、そこに世界経済の成長鈍化が重なれば、日本の輸出にとってさらなる問題が生じる恐れがあり、さらに、8月初めの米国による高関税の影響が拍車をかけることが考えられます。すなわち今後は、第2四半期のように「純輸出」が再び成長を支えることは困難になるということです。石破首相の突然の辞任も、経済成長を巡る政治的・政策的不確実性を増大させることになるでしょう2

 

図1:日本のGDPは第2四半期に回復

日本のGDPの前四半期比成長率と各セクターの寄与度*

Japanese Investor Insights: Chart 1 [JP]

出所: ブルームバーグ, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*「その他」には在庫の変動を含む。2025年6月までのデータ。

一方、日本のインフレ率は一定期間、高水準で推移してきました(図2)。7月に、日本のコアインフレ率(生鮮食品とエネルギーを除く)はさらに上昇して3.4%となり、2024年1月以来の高水準に達しました。それが、物価が高騰する中で、賃金が過去30年以上見られなかったペースで上昇している状況下で起きていることです。一方、慢性的な労働力不足も賃金上昇に拍車をかけています3。すなわち、賃金と物価のスパイラルが進んでおり、さらなるインフレ圧力につながる可能性があります。

 

図2:数十年ぶりの高水準に達したインフレと賃金上昇*

Japanese Investor Insights: Chart 2 [JP]

出所: ブルームバーグ, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

** 1月~7月までの平均値に基づいた2025年コアCPI(生鮮食品とエネルギーを除く)

今年初めに政策金利を0.25%引き上げた後も、日本銀行(日銀)は慎重な姿勢を崩しておらず、インフレ圧力が強まる一方で、経済成長はさまざまな課題に直面しています。日銀が示した最新の見通しでは、インフレ予測が上方修正され、成長については依然として慎重な姿勢が堅持されていました(図3)。

 

図3:成長率の鈍化と高まるインフレ率*

Japanese Investor Insights: Chart 3 [JP]

出所: Bank of Japan, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

* コアインフレ率とは、食品価格とエネルギー価格を除いたインフレ率を指す。

 

図4:インフレ率の上昇に伴って高まる株式と債券の相関

日本の株式と債券の相関(過去3年ローリング)*

Japanese Investor Insights: Chart 4 [JP]

出所: ブルームバーグ, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データ入手の問題のため、2000年1月から2025年7月までのデータを使用。日経平均株価とBPI JGB Total Indexの月次収益(円建て)の間の3年間ローリング相関性に基づき、同時期の日本のコアインフレ率の3年間平均値と比較してプロットした。

こうしたマクロ環境の下で日銀は金融政策の調整を続ける可能性があり、日本国債(JGB)のパフォーマンスは変動性を増し、弱含みに推移するものと思われます。さらに、国内のインフレ圧力から、日本株と日本国債の間の相関が増しており、国内投資家に対して開かれている株式市場での投資機会は、さらに制約を受けることになります(図4)。

日本の投資家は資産パフォーマンスの乖離を十分認識しています(図5)。特に、円建て金価格は2024年に40%という驚異的なリターンを記録した後も他の資産を上回るパフォーマンスを維持しており、今年も23%の上昇となり、ドル安とその他の要因が今年に入ってからの金の強さを支えてきました。今後を展望すると、さまざまな経済シナリオに不確実性があるものの、金にとってファンダメンタルズは依然として有利であり続けると考えます。

ワールド ゴールド カウンシルではここ数年のこうした力強い金価格の上昇を受け、金が日本の投資家の関心を呼んだかどうかを知り、投資を促す要因と阻む要因を探ることにしました。そこで私たちは世界的な市場調査会社に、大規模なオンライン市場調査の実施を依頼しました。調査では、幅広い年齢層の日本の投資家2,024人から回答を得ることができました。実施期間は2024年後半でした(補足1)。

 

図5:2025年も金は輝き続ける

さまざまな資産のパフォーマンス(円建て)*

Japanese Investor Insights: Chart 5 [JP]

出所: ICEベンチマーク・アドミニストレーション, ブルームバーグ, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

* LBMA金価格午後決め値、TOPIX不動産業指数、ブルームバーグ国際総合指数、MSCIワールドインデックス、日経平均株価、ブルームバーグ米国債総合指数、S&P 500、ブルームバーグ商品指数、ブルームバーグ日本総合指数、NOMURA BPI JGB Total Indexに基づく。2025年8月29日時点での2025年パフォーマンス。計算はすべて日本円で実施。

日本の金(ゴールド)投資家に関する洞察‐2025年‐

金は日本のポートフォリオで過小評価されています。

現在保有している投資商品についての質問で、日本の投資家の大多数(73%)が「株式」と答えています(図6)。金は過小評価されています。ポートフォリオで金を保有していると回答した投資家は正味23%に過ぎませんでした。さらに最近になって、日本の投資家たちを対象とする、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントと共同で実施した同様の調査でも、こうした結果が裏付けられました。回答者のうち、ポートフォリオに金が含まれていると答えたのはわずか28%でした(図14)。

 

図6:日本のポートフォリオにおいて金の保有は株式を大きく下回る

Q:以下の投資商品や貯蓄のうち、現在保有しているのはどれですか?*

Japanese Investor Insights: Chart 6 [JP]

出所: ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*調査ベース:全回答者(n=2024)。

また金の役割は、投資家が保有する資産によって異なることもわかりました。ポートフォリオの額が2,000万円以上の場合、金を保有する可能性が高くなり、純額ベースで見ると、そうした高額投資家の36%が金を保有しており、全サンプルの23%よりも高くなっています。また、ワールド ゴールド カウンシルが今年、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントと共同で実施した調査でも、このことが裏付けられています(図15)。

なお、金の保有率は比較的低いものの、何らかの形での金を保有している人の多くは、ポートフォリオの1%~10%のシェアで金を保有しており(図7)、仮想のグローバルポートフォリオにおける金の最適な配分に関するワールド ゴールド カウンシルの分析とも一致します。

 

図7:日本のポートフォリオにおける金のシェアは1%~10%が最も多い

Q:貯蓄と投資の合計額に占める、次の保有資産の比率は何パーセントですか? * 

Japanese Investor Insights: Chart 7 [JP]

出所: ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*調査ベース:回答者全員が現在、次に挙げる投資商品を少なくとも1つ保有している。金地金・金貨(n=160)、金を裏付けとする上場投資信託(ETF)(n=145)、金関連有価証券(n=62)、高級金宝飾品(n=150)、純金積み立て(GAP)(n=145)。

調査からは、ポートフォリオに金の配分枠を設定している日本の投資家たちに、金の現物や金ETF、純金積み立て(GAP)を含む金投資商品の人気が高いことも判明しました。ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントとの共同調査でも、これらの商品は、現在金を保有している人たちの間で人気が高いことが示されました(図16)。

図表1:日本の投資家は資産形成(富の成長)と老後の備えを求めており、そうした長期的目標の達成に金が役立つと考えている 

Q:現在、何らかの貯蓄または投資を行っていますか?

Figure 1

 

日本の投資家の目的およびニーズの理解

金のポテンシャルを評価するには、日本の投資家のニーズを理解することが不可欠であると考えます。資産運用目標についての質問から、資産形成や老後の備えといった長期目標が最優先事項であることが分かりました(図表1)。

回答者の多くが資産形成において、株式や暗号通貨といったよりリスクの高い投資商品を主に利用していましたが、金ETFもある程度利用されていました。金の現物投資は、老後の資金や緊急時の資金の確保、家庭を築いたり、車を購入したりといった目的に役立つと見なされています。

日本の投資家がこうしたさまざまな金融ニーズを満たす上で金が果たす役割は、金に対する日本の投資家の認識と強く結びついているように思われます(図8)。たとえば、金のインフレヘッジ機能や資産形成力、非常時の備えとしての役割は、金投資を決定する際の主な要因とされています。また、これらの要因は金に投資しない人からも、金を購入する理由として認識されています。おそらくこのことが、私たちの調査に回答くださった方が、金は資産形成や老後の備え、緊急時の資金源といった主要な資産運用目標の達成に役立つと考えた理由でしょう。

また資産運用目標の達成を助けるという役割に加え、金は機能的ニーズに対応する上でも高く評価されていることも確認されました(表1)。たとえば、金ETFは他の投資商品に比べて良好な長期リターンを実現するのに適していると評価され、また金地金・金貨、高級金宝飾品、純金積み立ては長期にわたる価値の安定性という機能的ニーズにおいて高く評価されています。

 

図8:日本の投資家の資産運用目標に関係する金投資の動機

金投資家の金投資の動機と、金に投資していない人が考える金を購入する理由を含む*

Japanese Investor Insights: Chart 8 [JP]

出所: ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*調査ベース:サンプル合計(2,024)。Q:金投資を選ぶ/選んだ理由は何ですか?回答者全員がかつて金を購入したことがある(n=558)。Q:人が金に投資する理由は何だと思いますか?回答者全員が金を購入したことがない(n=1466)。人が金に投資する理由は何だと思いますか?

表1:金は日本の投資家の主要な機能的ニーズを満たすのに適した位置にある

緑:指数化した平均値と比較し2割以上高い。赤:2割以上低い*。(補足1

投資の機能的ニーズ それが重要とした割合** 金地金・金貨 金ETF その他の金関連有価証券 高級金宝飾品 純金積み立て
良好な長期リターン 38%
低い購入コスト 28%
少額での投資が可能 26%
売却が容易 26%
管理が容易 25%
低リスク 23%
利子・配当の支払い 23%
長期にわたる価値の安定性 19%
大きな利益を得るチャンス 18%
税の優遇 17%

*調査ベース:全員が過去5年間に投資実績があるか、または今後12ヵ月間に投資する予定がある。金地金・金貨(n=166)、金ETF(n=229)、その他の金関連有価証券(n=75)、高級金宝飾品(n=151)、純金積み立て(GAP)(n=173)。Q:これらの貯蓄タイプまたは投資タイプに関連付ける特性があるとしたら、それはこれらのうちどれですか?
**調査ベース:サンプル合計(n=2,024)。Q:通常、貯蓄商品や投資商品に求める特性があるとすれば、それはこれらのうちどれですか?最大5つまで選んでください。
出所:ワールド ゴールド カウンシル

ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントとの共同調査では、日本の投資家が金を好む理由が「安定したリターン」であることが判明しました。金投資の最大の理由は、「歴史的に、金はその価値を維持してきた」と「長期にわたり良好なリターンを得られるチャンスがある」でした(図17)。

さらに金は、多くの重要な感情的ニーズへの対応でも優れた力を発揮します。それは主に、日本の投資家が投資に際して、安心感や安全性、信頼感を求める傾向があるためです。そして金は、安全な避難先としての性質や、将来の非常時の影響を緩和する能力、そして長期にわたる安定した価値によって、こうした感情的なニーズに適合します(図9)。

 

図9:日本の投資家の主要な感情的ニーズは安心と充足感に関係する

Q:次のうち、貯蓄と投資の選択において、あなたがどのように感じたいかを最もよく表しているのはどれですか?(最大5つまで選んでください。)*

Japanese Investor Insights: Chart 9 [JP]

出所: ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*調査ベース:全回答者(n=2024)。

また、日本の投資家が初めて金に投資するきっかけとなった主な理由は次のとおりです。

  • 近年の強力なパフォーマンスから利益を得るため
  • 信頼できる情報源から、リスクの低い選択肢だと聞いたから
  • 特定の投資傾向に気づいたから
  • 金融出版物またはフィナンシャルアドバイザーのアドバイス

このことは、金が複数の主要な機能的ニーズや感情的ニーズを満たしていることを示しています。金の最近のパフォーマンスとその長期的な特性は、投資家の最も重要な資産運用目標にもよく適合しています。しかし、これまで日本の投資家の間で金が人気の投資対象とならなかったのはなぜでしょうか?その疑問に答えるには、障壁について検証する必要があります。

ポテンシャルと障壁

日本の投資家は金には前向きですが、現実と意識上の障壁が、金投資の広がりを阻んでいるようです。金投資の経験がないと回答した73%のうち多く(47%)が、今後も金に投資する可能性は低いと回答し、今後12ヵ月以内に金投資を検討すると回答したのはわずか10%でした。

しかし、過去に金投資をしたことがある人(27%)では、再投資の可能性が高くなります。ワールド ゴールド カウンシルの調査では、過去に金を保有したことがある人の58%に、今後12ヵ月間に再び投資する可能性があることが明らかになりました。一方で、過去に金投資を行ったことがある人の17%は、金への追加投資をする意向を示しましたが、その時期は今後12ヵ月以内ではありませんでした。

また、金投資の経験がない投資家に、その理由を尋ねました。回答者の多数が、金投資に関する認識や知識の全般的欠如を理由としてあげました。たとえば、11%の人が、金投資の最初の手順を知らないと答えました(図10)。また、近年の金価格高騰のため、資金面での制約がもう一つの重大な障害となっていました。

 

図10:知識不足が、金投資の経験がない人にとっての主な抑制要因

Q:金投資の経験がない理由は、次のうちどれですか?*

Japanese Investor Insights: Chart 10 [JP]

出所: ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*調査ベース:回答者全員に金投資の経験がない(n=1466)。

これは、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントとの共同調査プロジェクトの結果と一致しており、その調査では、金を保有していない人に金投資を思いとどまらせる要因は、金の高価格と彼ら自身の知識不足に関連していることが判明しました(図18)。

過去12ヵ月間において、投資を中止していた投資家4が金を購入することを妨げた主な要因は価格に関係していました。現在の金価格は投資や購入には高すぎるようです(図11)。また、金は購入するのが難しいという認識も重要な要因です。

 

図11:高騰した金価格が金投資経験がある人たちにとっての最大の抑制要因

Q:あなたは過去5年以内に金投資を行ったことはあるが、過去12ヵ月に限ると投資していないと回答しました。過去12ヵ月間に、金投資を行わなかった理由は何ですか?*

Japanese Investor Insights: Chart 11 [JP]

出所: ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*調査ベース:全員が過去5年以内に金投資を行ったが、過去12ヵ月に限っては行わなかった(n=71)。サンプル数が少ないことから、このデータの取り扱いには十分注意してください。

金投資の障壁を克服する4つのカギ

これらの障壁を克服するため、ワールド ゴールド カウンシルでは次の4点がカギとなると考えます。

金投資に関する教育:金投資の経験がない人たちは、そもそも金商品に対して馴染みが低いことが分かりました。投資を促す第一歩は、金が投資家のニーズをどのように満たすことができるかを理解して頂くことです。長期的なリターンの提供や長い年月における安定性など金が持つ特長は、日本の投資家の資産運用目標とよく合致しており、金に対する関心を呼び起こすうえで重要なポイントです。

さまざまな金投資手法とそれぞれの利点に関する教育も重要です。たとえば、低コストの金商品に関する知識が乏しい投資家にとっては「金は他の投資手段のように低コストの投資ではない。」と誤って理解している可能性があります。

金への投資をより簡単に:すでに述べたように、日本の投資家は、簡単で、なおかつ少額の投資が可能で、低コストのプロセスを望んでいます。現在、金に投資している人たちにも、金投資のプロセスは分かりにくいと感じている人はいます。また、金投資を行っていない人たちは、どこから始めればよいかが分からず、投資が手間のかからないものだという点に疑いを持っています。ワールド ゴールド カウンシルの調査では、回答者の65%が投資取引をオンラインかアプリによって管理していることが分かりました。彼らは、そうした手段による金の購入や管理が容易に行えることを必要としており、また、低額の手数料で実行できることを望んでいます。

困難な時期における金の安定性:インフレ圧力が続き、世界経済が低迷する中、日本の投資家にとって必要なのは、これまで以上の信頼性と分散投資です。日本国債がリスク分散機能を十分に果たせなくなった状況にあって、金が経済の不確実性や貿易リスクの急拡大、インフレ圧力の高まりに対する、日本の投資家にとっての緩衝材として機能してきたこと、そして今後も機能し続けることが期待できるというメッセージを伝えることが重要です(図12)。

 

図12:金は、好況時には繁栄を共有し、不況時には分散手段となる

金(円建て)と株式との相関*

Japanese Investor Insights: Chart 12 [JP]

出所: ブルームバーグ, ICEベンチマーク・アドミニストレーション, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

* 2005年1月~2025年8月までの週間データ。日経平均株価とLBMA金価格午後決め値の円建て週次リターンに基づく相関性。S&P 500とLBMA金価格午後決め値はドル建て。上のバーは、株式の週次リターンが2標準偏差を超える上昇となった場合における、それぞれの相関性に対応している。真ん中のバーは±2標準偏差の間における株式リターンであり、下のバーは2標準偏差を超える下落となった場合の株式週次リターンである。標準偏差は、全期間における週次リターンを使用して計算した。

これらの障壁を克服するカギを重要なチャネルを通じて伝えることが、最終的に日本における金のシェア拡大につながります。ワールド ゴールド カウンシルの調査結果から、新聞/雑誌やソーシャルメディアからの情報は、投資判断において、重要な役割を果たしていることが明らかになりました。日本の投資家の大半がモバイルアプリやオンラインプラットフォームを通じて、投資の管理を行っているため、こうしたチャネルを介して金の特性に関する明確なメッセージを発信することが、金に対する認識を広め、戦略的資産としての金の価値向上に資する可能性が高まるはずです。

結論

日本経済は今、困難に直面しています。数十年ぶりのインフレ圧力が続く中、2000年代初頭以来の水準まで金利が引き上げられています。日本国債のパフォーマンスが悪影響を受けるだけでなく、分散手段としての国債の役割が損なわれています。こうしたことも背景として、金が最もパフォーマンスに優れた資産として注目され投資家を惹き付けるようになりました。日本の個人投資家を対象にワールド ゴールド カウンシルが実施した今回の調査は、投資家がどのくらい金を受け入れているのか、また今後どのような機会があるのかを理解することを目的として実施され、次のことが明らかになりました。

  • 日本のポートフォリオでは、金の保有は少なく、金への資金配分は少ない。
  • 金は、日本の投資家の主要な資産運用の目的に合致する。
  • 金はまた、日本の投資家の主要な機能的ニーズおよび感情的ニーズにも適合する。
  • 金に対する認識不足、理解不足が、投資に対する障壁となっている。

日本のポートフォリオには金を組み入れる余地があるというのが、ワールド ゴールド カウンシルの結論です。このポテンシャルを引き出すカギが以下の各項です。 

  • 金投資に関する教育
  • 金投資をより簡単に
  • 困難な時期における安全資産および分散投資としての金の位置付け
  • 最適なチャネルを通じたこれらのメッセージの伝達

日銀によると、2025年第1四半期時点で、日本の家計が保有する金融資産は2,195兆円(15兆米ドル)に達しています(図13)。現在、金の配分率が低いことは、日本市場に極めて大きなポテンシャルがあることを示唆していることになります。

 

図13:金のポテンシャルを示唆する日本の投資家の金融資産増加

セクター別日本の家計の金融資産*

Japanese Investor Insights: Chart 13 [JP]

出所: Bank of Japan, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*データは2025年第1四半期現在。

金は、実績のある安定性や魅力的な長期リターン、危機に際しての強力なパフォーマンスにより、投資家のポートフォリオにおける戦略的資産として、依然重要性を保っています。足元のマクロ環境や地政学的状況を鑑みると、日本の投資家に対する金の重要性はますます高まるものと考えられ、そのことは日本の金ETFへの流入が続いていることですでに証明されています。特に日本の投資家が直面している障壁が克服されれば、日本には金投資が成長する大きな可能性があります。

補足1

ここで取り上げる日本の消費者に関する洞察は、世界的な調査会社がワールド ゴールド カウンシルの代理として実施した調査に基づいています。調査が実施されたのは、2024年7月5日から9月20日までの期間です。

調査の目的は、投資全般ならびに金投資に関連して、回答者が述べた行動、ニーズ、動機、スタンスを明らかにすることです。具体的には、次の点に焦点を当てました。

  • 異なる時間枠にわたり投資家が選択した金融商品はどれか。現在投資家が保有している金融商品はどれか。投資対象として検討している金融商品はどれか。金はどこに位置付けられるか。
  • 投資行動に関わる主要な目標、ニーズ、動機、嗜好、スタンス、そしてそれらが金投資家において異なる場合、その違いはどのようなものか。
  • 金投資家とはどのような人で、また、(調査で定義した)他の投資家と違いがある場合、その違いはどのようなものか。

サンプル

調査は日本において、18歳から65歳までの投資家2,024人を対象に、オンライン自己記入方式で実施しました。

回答者は、それぞれの投資行動に従って選別しました。投資家とは、過去12ヵ月間に、あらかじめ定義された投資商品リストにある商品の少なくとも1つに投資したことがあると申告した人です。過去12ヵ月間に普通口座へ預金を追加しただけの人は、過去5年間に、あらかじめ定義された投資商品リストにある別の商品に投資したことがなければなりません。 

割り当てとデータの重み付け

割り当ては、年齢、性別、地域、就労状況の各項目にわたって適用しました。

本レポートにおける具体的定義と参考資料:

  • 正味の金投資」は、金地金・金貨、金を裏付けとする上場投資信託、他の金関連有価証券、高級金宝飾品、および純金積み立てを意味します。
  • 金投資家」/「現在の金投資家」とは、上記の金商品のいずれかをポートフォリオに組み入れていると申告した者を意味します。
  • 金投資経験あり」、「過去12ヵ月間(P12M)の金投資家」、および「過去5年間(P5Y)の金投資家」では、指定された時間枠内に行われた特定の金投資に関して、同じ定義を使用し、「今後12ヵ月(N12M)以内に金投資を検討する」投資家についても同様とします。

4段階尺度で回答を求める、スタンスに関する設問:「肯定的に感じる」、「否定的に感じる」、「自信がある」、「自信がない」という表現は、上位2つのコード(「非常に肯定的」および「やや肯定的」)をまとめた回答、または下位2つのコード(「非常に否定的」および「やや否定的」)をまとめた回答を指します。

大規模投資家」、「中規模投資家」、「小規模投資家」の定義は、回答者が申告したポートフォリオの総額に基づいています。大・中・小の区分はポートフォリオの額の分布によって決まります。

商品投資や資産運用目標、情報源、その他の要因に関する質問では、回答者に対し、事前にコード化されたリスト(「その他(自由回答)」選択肢あり)から選択するよう求めました。

関心グループ間の差異は、信頼度95%の両側検定に基づいています。

本レポートのデータの一部には、インデックス計算が適用されています。インデックス値が120を超える差異、または80を下回る差異は強調表示されます。これらのインデックス値は、特定のデータポイントを同一グループ内の全回答の平均値と直接比較することで導出されます。

補足2

調査方法

ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントとワールド ゴールド カウンシルは、日本における金の保有実態ならびに金の位置付けに関して、個人投資家やフィナンシャルアドバイザー、卸売業者、機関投資家などを対象に、ベンチマーキングおよび評価を行うための調査を共同で委託しました。個人投資家を対象とした調査は、2025年4月から5月にかけて実施されました。

サンプル

個人投資家調査は、定量的オンライン調査を用いて、18歳から65歳までの日本の投資家2,005人を対象に実施しました。
調査対象者は、次の基準によって選別しました。

  • 500万円以上の資産がある。
  • インターネット証券のNISA口座を持っている。

2025年6月に、279人の回答者を対象として追加のサンプル調査が実施されました。この回答者たちは総サンプルには含まず、年齢別分析にのみ使用しました。

追加サンプルのプロフィールは次の通りです。

  • 年齢は18歳~29歳
  • 資産は300万円以上

統計的検定は95%の信頼水準で実施しました。

調査結果から分かったこと

まず、図14に示したように、日本の投資家による金の保有量が少ないことが判明しました。その一方で、調査結果から、現在の日本の投資家の金保有量が、ポートフォリオの規模が拡大するにつれて増加していることがわかりました(図15)。

 

図14:現在、日本の投資家の28%が金を保有している

Q:次に挙げる投資商品(ここでは、金)について、その商品に関するあなたの保有状況を最もよく表している選択肢を選んでください。雇用主が提供する企業年金制度(確定給付型または確定拠出型)*の中で保有する商品は含めないでください。

Japanese Investor Insights: Chart 14 [JP]

出所: 8 Acre Perspective, State Street Investment Management, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*調査ベース:合計n=2005。

 

図15:一般に、金保有はポートフォリオの大きさと共に増加する

Q:次に挙げる投資商品それぞれ(ここでは、金)について、その商品に関するあなたの保有状況を最もよく表している選択肢を選んでください。雇用主が提供する企業年金制度(確定給付型または確定拠出型)*の中で保有する商品は含めないでください。

Japanese Investor Insights: Chart 15 [JP]

出所: 8 Acre Perspective, State Street Investment Management, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*調査ベース:合計n=2005。

金保有者にとって、純金積み立て(GAP)や金の現物、金投資ファンド(投資信託とETFの両方)が金の配分先として人気のある選択肢であることがわかりました(図16)。

 

図16:金保有者に人気がある金商品

Q:あなたは金を現在保有していると回答されました。現在の投資方法はどのようなものですか?該当する答えをすべて選択してください。*

Japanese Investor Insights: Chart 16 [JP]

出所: 8 Acre Perspective, State Street Investment Management, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*調査ベース:金を現在保有している(n=560)。

金について、現在保有している人や将来保有する可能性がある人の保有理由に関する投資家たちの見方を示す以下の結果も参照しました(図17)。結果からは、金が持つ安定した価値、インフレヘッジ機能、世界的に認められた通貨としての役割のほか、ポートフォリオリスクの分散手段が、現在および将来の保有者の保有理由で上位を占めたことが明らかになりました。

その一方で、金を保有しない投資家にとっては、現在の金価格が高いことと知識不足が金の保有に踏み出せない主な理由であることが判明しました(図18)。

 

図17:金の多様な戦略的役割が、日本の投資家/将来の投資家が金に投資する主な理由 

Q:金を投資として保有している理由/保有することを検討する理由は、次のどれですか?主な理由を3つ選んでください*

Japanese Investor Insights: Chart 17 [JP]

出所: 8 Acre Perspective, State Street Investment Management, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*調査ベース:現在金を保有している(n=560)、または金を保有する可能性がある(n=650)。
安定した価値/リターンは、次の選択を行った回答者がベース:「歴史的に、金はその価値を維持してきた」(現在の保有者:51%/将来保有する可能性がある者:53%)と「長期にわたり良好なリターンを得られるチャンスがある」(同37%/32%)。ポートフォリオ/リスク保護は、次の選択を行った回答者がベース:「危機時のパフォーマンス」(同41%/35%)、「ポートフォリオリスクの軽減」(同27%/23%)、「景気後退に対する防護」(同22%/27%)。分散化/安定性は、次の選択を行った回答者がベース:「ポートフォリオの分散化」(同34%/36%)、「ポートフォリオに安定性をもたらす」(同28%/20%)、「広範な金融市場の不安定性からの保護」(同26%/16%)。推奨は、次の選択を行った回答者がベース:「金融専門家からの推奨」(同13%/6%)、「信頼できる人からの推奨」(同12%/5%)、「金融インフルエンサーからの推奨」(同9%/5%)。

 

図18:日本の投資家が金に投資するのを妨げている理由

Q:現在、金を保有していないのはなぜですか?該当する答えをすべて選択してください。*

Japanese Investor Insights: Chart 18 [JP]

出所: 8 Acre Perspective, State Street Investment Management, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*調査ベース:金保有なし(n=1445)。