日本の投資家にとって金は戦略的資産か?

2025年 金価格は一年で6割以上も上昇し、 1979年以来で最も力強いパフォーマンス を記録しました(チャート1)。昨年は、地政学リスクの高まり、世界的な貿易の不透明感の拡大、そしてポートフォリオ分散のための需要増加が中央銀行と世界中の投資家の継続的な買いに繋がり、金価格の歴史的な上昇をもたらしました。

2026年は年初から昨年の勢いを引き継ぎ、地政学リスクや貿易の不透明感の高まりなどを背景とした旺盛な金需要により、金価格のさらなる上昇につながりました。

しかし、このところの価格下落、ボラティリティ上昇を受けて、投資家からは「金は今でも戦略的資産と言えるのか?」といった重大な懸念の声が聞かれます。

2026年 日本の投資家は根強いインフレ圧力、株式と債券の相関の高まり、世界的な地政学リスクの継続といった多くの課題に直面しています。こうした環境にあって、私たちは、金を戦略的資産としてポートフォリオに加えることでパフォーマンスの改善に寄与すると考えます。

 

チャート1:2025年の金は力強く上昇、2026年も記録的なスタートに

円ベースのリターン(左)と、円建て金価格の推移(右)*

Why Gold Japan 2026: Chart 1a [JA]

 

Why Gold Japan 2026: Chart 1b [JP]

出所: ブルームバーグ, ICEベンチマーク・アドミニストレーション, ワールド ゴールド カウンシル; 免責事項

*使用インデックス:TOPIX不動産指数、日経225指数、MSCIワールド(日本除く)指数、S&P500指数、Bloombergコモディティ指数、Bloomberg Global Aggregate指数、Bloomberg US Aggregate指数、Bloomberg日本国債指数、LBMA Gold Price PM。2026年のリターンおよび過去最高値(ATH)は、2026年3月13日時点のデータ

2026年 日本のマクロ環境

高いインフレ圧力と金利上昇

「日本の投資家にとって金は戦略的資産か?」 この問いに答えるためには、まず日本の投資家が抱える課題とポートフォリオにおけるニーズを把握することが重要だと考えています。

2月の総選挙における高市首相の歴史的な大勝は、日本経済や国内資産に複数の影響を及ぼす可能性があります。1食品の消費税減税といった拡張的な財政政策の姿勢は、家計の生活費負担を緩和し、短期的には表面上のインフレを押し下げる可能性はあります。しかし、長期的なインフレ上昇リスクは依然として残っています。

日本の経済活動は改善しており、拡張的な財政政策によってさらに押し上げられる可能性があります。これを背景に、日本の需給ギャップ(アウトプットギャップ)は、日銀の見通しと2同様に、正の領域へと拡大していく可能性があります。

そしてアウトプットギャップがプラスに転じると、一般的に需要が供給能力や労働力の制約を上回ることを意味し、インフレ圧力が高まりやすくなります(チャート2)。

 

チャート2:アウトプットギャップの改善とインフレ圧力の高まり

日本のアウトプットギャップと物価上昇率*

Why Gold Japan 2026: Chart 2 - [JP]

*アウトプットギャップ:2025年第3四半期時点、コアインフレ率:2025年第4四半期時点の四半期データ
出所:ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル

一方で、労働力不足は物価上昇圧力をさらに高める可能性があります。出生率の低下、平均寿命の伸長、生産年齢人口の縮小によって労働供給が逼迫しており、これらの要因に加えてアウトプットギャップの改善が重なったことで、日本の労働参加率は過去最高水準に達しています。

高市首相による厳格な外国人政策の姿勢は、こうした制約を緩和する効果は限定的です。これらを踏まえると、限られた労働供給と拡大するアウトプットギャップは、賃金上昇を持続させ、結果として長期的なインフレ率を押し上げる要因になると考えられます(チャート3)。 

 

チャート3:急上昇する賃上げ率

日本の春季労使交渉の賃上げ率と労働参加率*

Why Gold Japan 2026: Chart 3 - [JP]

*2025年までの年率データ
出所:ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル 

こうした状況を踏まえると、日本銀行(BoJ)の動向が一段と重要になります。拡張的な財政政策が続く一方で、日銀は金融政策の正常化を進めると見込まれています。これは一見すると首相の政策スタンスと矛盾するように見えますが、漸進的な引き締めは、円安とインフレ圧力の高まりを抑えるために不可欠です。これらは財政緩和によってさらに悪化する可能性があるためです。

さらに 以前に指摘の通り、日銀が利上げを継続するためのマクロ環境はすでに十分整っています。賃金と物価のスパイラルはなお続いており、アウトプットギャップも拡大が続いています。これらの要因は、日銀が対応を遅らせれば高いコストを伴う、粘着性の強い、根強いインフレ圧力を示唆しています。 

インフレ圧力につれて高まる株式と債券の相関

以上を踏まえると、日本の投資家が注視すべき潜在的なトレンドは次の3点です:

  • 拡張的な財政政策の継続
  • インフレ圧力の一段の高まり
  • 金利上昇局面の継続

同時に、グローバルな不確実性も無視できません:

  • 日本を取り巻く地政学リスクの上昇
  • 世界的な貿易不確実性の再燃
  • 脱グローバル化の流れ(構造的なコスト押し上げ要因)

過去に指摘の通り世界の株式と債券の相関は、根強いインフレ圧力のもとで高止まりしています。インフレが予想を上回る局面では、両資産に同時に悪影響が及ぶ傾向があり、これは現在の環境で特に顕著です。

  • インフレが容易に収束する見通しは乏しい
  • 成長見通しは堅調な一方、外部ショックのリスクは多い

こうした状況下では、国内金利はさらに上昇する可能性が高いとみられます。

収まりそうにない地政学リスク

ポートフォリオ構築にあたって、日本の投資家は複数の要素を考慮する必要があります。とりわけ、歴史的データが示すように、地政学リスク(GPR)の急騰(スパイク)は群発する傾向があります。急騰の平均持続期間は約 3 週間ですが、その後も GPR 指数は数週間にわたり高止まりする傾向があります。つまり、いちど地政学リスクが顕在化した際には、このリスクは一回限りではなく、次から次へと押し寄せるものです(チャート 4)。

現下の環境を踏まえて、主として国内外の株式や債券に資産を配分してきた日本の投資家にとって、今後は以下の点を考慮することが重要になると考えられます。

  • インフレに対するヘッジ手段の確保
  • 株式との相関が低い、もしくは逆相関の資産の組み入れ
  • “未知の未知”とも言える地政学的ショックに対するクッションの確保
 

チャート4:地政学リスク(GPR)の急騰は持続する傾向

急騰前後におけるGPRの平均推移*

Why Gold Japan 2026: Chart 4 - [JP]

*1985年1月6日~2026年3月8日におけるGeopolitical Risk (GPR)Index週次平均に基づく。「急騰」の定義は、GPR指数が全サンプルの上位10パーセンタイルと定義。継続期間において215回発生。
出所:ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル 

金は日本の投資家に戦略的優位性を提供できるか?

では、当初の問いに戻りましょう。金の価格変動がこれまで以上に大きく拡大している現在、金は依然として安全資産と言えるのでしょうか。

当社は、足元の金価格のボラティリティ上昇は、地政学リスクの頻発に加え、2026 年に入ってからインフレ見通しや主要中央銀行の政策に対する市場の見方が変化していることが背景にあると考えています。

しかしながら、歴史的な分析では 金のボラティリティは平均回帰的な性質を持つことが示されており、現在の高水準の変動性は時間とともに落ち着く可能性が高いとみています。

さらに、金が日本の投資家のポートフォリオにおいて依然として高い戦略的価値を有する理由として、特に以下の特性が挙げられます。

金:成長へ効率的に寄与する資産

投資家は長年、不確実性が高まる局面で金が有用であると認識してきました。しかし歴史的に見ると、金は良い経済環境でも悪い経済環境でも長期的にプラスのリターンを生み出してきた資産であり、複数の期間にわたり、多くの主要資産クラスをアウトパフォームしています(チャート5

 

チャート5:金は安定したリターン源

年平均成長率 (CAGR)*

Why Gold Japan 2026: Chart 5 - [JP]

*2006年2月から2026年2月までの円建てリターンに基づく。使用インデックス:日経225指数、MSCIワールド(日本除く)指数、FTSE日本国債指数、Bloomberg Global Aggregate指数、Bloombergコモディティ指数、LBMA Gold Price PM
出所:ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル 

金は需要の源泉が多様であるため、その価格の動きは金にしかない特有の強靭性があるだけでなく、さまざまな市場環境において堅実なリターンをもたらす潜在力があります。

例えば、金は一方で長期的に資産を保全し富を増やすための投資資産として利用され(逆景気循環的な需要)、他方では、宝飾品需要やテクノロジー用途を通じた消費財としても利用されます(景気循環的な需要)

リスク性資産との低い相関

金と国内株式の相関関係は、歴史的に見てもきわめて独特です。株価が下落する局面では、金の相関はほぼゼロ近くまで低下する一方、株式市場が上昇する局面では、金の相関はむしろ高まる傾向があります(チャート 6)。

そのため、投資家は株価下落時に資産全体の価値を守る力を確保しつつ、株式上昇局面には、その上昇に取り残されることを回避できます。

金が長らく“安全資産(セーフヘブン)”として扱われてきた背景には、市場ストレス時に投資家の資金が金に流入しやすいという特性があり、これが市場のリスクオフ局面で金の底堅さを支える要因となっています。また金は世界的な要因によって価格が動くグローバル資産であり、特定の国の景気や政策に過度に依存しないため、その特定国の株式との相関は抑制される特性があります。

さらに、国内株式の上昇局面の多くは、円安、グローバル/国内の流動性拡大などによって支えられています。円ベースの金価格はこうした環境下で恩恵を受けることが多く、その結果、国内株式が上昇する局面では金との相関が高まりやすいという特徴が見られます。

 

チャート 6:金の独特な株式との相関が投資家のポートフォリオに寄与

Why Gold Japan 2026: Chart 6 - [JP]

*データは2000年1月から2026年2月までの週次データを使用。相関は円建て週次リターンに基づき、株式は日経225指数およびS&P500指数、金はLBMA Gold Price PM を使用。上段は、株式の週次リターンが平均値からプラス2標準偏差超で上昇した場合の相関、中段は±2標準偏差以内で推移した場合、下段はマイナス2標準偏差を超えて下落した場合の相関を示す。金とS&P500 の相関は米ドル建てリターンに基づく。

地政学リスクに対する効果的なヘッジ

金は、地政学リスクに対する効果的なヘッジとして広く認識されています。地政学的緊張が高まる局面では、投資家は カウンターパーティリスクが存在しないこと、グローバル市場での高い流動性、特定の政府や通貨に依存しない特性 を理由に金へ資金を振り向ける傾向があります。

歴史的データを見ると、地政学リスクが急上昇する際に金価格も上昇する傾向があり、金には明確な「地政学プレミアム」が存在することが示されています(チャート7)。

 

チャート7:金は地政学リスクに対する効果的なヘッジ

地政学リスク指数が急上昇前する前(上昇した週を含む)4週間の週平均リターン*

Why Gold Japan 2026: Chart 7 - [JP]

*データは1985年1月から2026年2月までの週次データを使用。地政学リスクの急上昇は、地政学リスク指数が2標準偏差を超えて上昇した週として計測。連続して発生した場合は最初の週のみを採用。使用インデックス:WTI原油価格、LBMA Gold Price PM、S&P500指数、Bloomberg米国債総合指数、Bloombergドル指数、円スポット、BPI日本国債指数、MSCIワールド(日本除く)指数、日経平均株価(米ドル建て)。

インフレ局面では特に有効なヘッジ資産

金は長らくインフレに対するヘッジとして認識されてきました。これは世界全体で当てはまるだけでなく、日本においても歴史的なデータが金のインフレ・ヘッジ能力を裏付けています。

インフレ率が2%を上回る局面(2013年以降、日銀のインフレ目標)では、円建ての金は名目ベースで年平均23%という非常に高いリターンを示しており、実質ベースでも年平均16%のリターンに相当します(チャート8)。

したがって、長期的には金は資産価値を維持するだけではなく、資産を成長させる役割も果たしてきました。

また、データでは金がデフレ局面においても良好なパフォーマンスを発揮し得ることを示しています。これは日本の投資家が長年直面してきた重要な懸念事項です。デフレ環境は、低成長、低金利(マイナス金利を含む)、消費・投資の抑制、金融ストレスといった特徴を持ち、これらはすべて金投資需要を高める傾向があります。

 

チャート8:インフレ局面に強く、デフレ期にも良好

日本の物価局面における金の名目・実質リターン*

Why Gold Japan 2026: Chart 8 - [JP]

*2025年時点。金(LBMA Gold Price PM)の円建て前年比変化率と、1971年以降の日本の消費者物価指数(CPI)に基づく。この間、低インフレ(<1%)局面は26回、高インフレ局面(>2%)は20回発生している。
出所:ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル 

金:日本の投資家にとっての戦略的資産 

私たちは、過去のデータおよび直近の動向を振り返り、金が安定したリターン——とりわけリスク調整後リターン——をもたらしてきたこと、株式とは独特な相関特性を持つこと、地政学ショックに対する緩衝材となること、そしてインフレに対するヘッジ機能があることを示してきました。

では、金は日本の投資家のポートフォリオにとって重要な戦略的資産なのでしょうか。 

金の役割を評価するため、私たちは日本の企業年金の資産構成比率をベースとした仮想ポートフォリオを想定し、各資産クラスのリターンデータを用い、金の組入れが無いポートフォリオと、各資産の構成比率からから案分して資金を拠出し金を5%組み入れたポートフォリオのパフォーマンスを分析しました。

その結果、金を5%組み入れた仮想ポートフォリオは、リターンの改善とリスクの低減を同時に実現できることが明らかになりました(表1)。

表 1: 金の組入れは日本の企業年金の仮想ポートフォリオを改善*

 過去 20 年過去 15 年過去 5 年
 金 0%金 5%金 0%金 5%金 0%金 5%
リターン(年率)7.0%7.6%15.5%16.1%14.9%16.7%
ボラティリティ(年率)10.6%10.0%10.7%10.1%12.7%11.7%
リスク調整後リターン0.670.751.451.601.181.42
最大下落率-31.2%-29.4%-25.8%-21.6%-13.0%-11.1%
バリュー@リスク 99%-24.6%-23.4%-24.9%-23.5%-29.5%-27.4%

*仮想ポートフォリオの詳細はチャート9の注記を参照。 
出所:企業年金に関する基本統計|統計資料|企業年金連合会、ブルームバーグ、ワールド ゴールド カウンシル 

私たちの分析結果では、過去20年間において金の組入れを 2.5%、5%、7.5%さらには10%と 段階的に増やした場合、絶対リターンだけでなく、リスク調整後リターンも改善したことを示しています(チャート9)。

 

チャート9:戦略的資産としての金の役割

日本の企業年金の仮想ポートのリスク調整後リターン

Why Gold Japan 2026: Chart 9 - [JP]

*仮想ポートフォリオの資産構成は、Pension Fund Association,企業年金連合会「企業年金実態調査」における2024年度の資産構成比率に基づく(日本債券(構成比率18.7%、リターンBPI JGB Index)、外国債券(17.1%、Bloomberg Global Agg Index〈日本除く〉)、日本株式(9.5%、TOPIX指数)、外国株式(13.7%、MSCI Kokusai)オルタナティブ(19.9%、TOPIX不動産指数、FTSE PE/VC指数、S&Pインフラ指数、Barclay Equity Long/Short指数の等加重インデックスと仮定)、一般勘定(リターンは1.25%+配当で年1.5%と仮定)、短期債(5.1%、BPI JGB 1–3年指数))。金のリターンはLBMA Gold Price PMを使用。すべての計算は、2006年2月から2026年2月までの円建て月次データを基に実施。金を5%組入れたポートフォリオでは、他の資産から案分して資金を拠出。

結論

日本は、これまでとは大きく異なるマクロ環境に入りつつあります。拡大するプラスのアウトプットギャップ、恒常的な労働力不足、そして拡張的な財政政策により、少なくとも過去30年間では経験したことのない、根強いインフレ圧力が生じています。さらに、日本銀行が漸進的な政策金利の正常化を継続する可能性も十分に考えられます。また外部環境では、地政学リスクが落ち着く気配はかなり低く、このことは市場に予測困難なショックをもたらす要因となっています。さらに、株式と債券の相関の高まりや積極的な財政拡大に伴う政府債務への将来懸念などが加わり、日本の投資家は新たなポートフォリオ分散を検討する局面にあると見られます。

こうした環境下、金は依然として、日本の投資家のポートフォリオにおいて戦略的に重要な資産になり得ることが、私たちの分析から示されています。歴史的に見ると、金は長期的には堅調なリターン、リスク考慮後の優れたパフォーマンス、そして株式との低い(または非対称な)相関を示してきました。さらに重要なのは、金が有効なインフレ・ヘッジとして機能し得ると考えられる点です。私たちの仮想ポートフォリオのシミュレーション結果からは、戦略的資産として金を若干でも組入れることで、ポートフォリオのパフォーマンスは様々な時間軸で改善することが示されています。

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